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気候変動に警鐘を鳴らすメディア自身はどう取り組んでいるのか、自社使用電力に100%再エネ導入のメディアも。一斉アンケートの結果を公開!

調査・執筆 Media is Hope

記録的な去年の猛暑、そして現在発生している大雪、他にも世界各地で――

気候変動への取り組みは、もう待ったなしの状態です。メディア各社も温室効果ガスを削減するための取り組みや、再生可能エネルギーの導入など、持続可能な社会に向けての呼びかけを強める発信をしていますよね。「SDGs」という言葉も、すっかり定着しました。

しかしそんなメディア企業自身は、果たしてどのように取り組んでいるのでしょうか。今回、日本全国のメディア企業に一斉アンケート。その結果を公開します。


「排出削減目標」を定めているのはまだ3割強

調査の対象にしたのは全国メディア、地方メディアを問わず新聞社、出版社、テレビ局、ポータルサイトを含めたウェブメディアの運営企業など合わせて131社で、自社の媒体・プラットフォームで報道やコンテンツを扱うメディアであることをであることを基準に選出しました。このうち、期限までに32社から回答が送られてきました。回答率は低いですが、いずれも示唆に富む丁寧な回答を寄せてくれています。

まずは「自社の温室効果ガス排出削減目標はありますか」という質問をしてみました。すると、「目標あり」は11社、「なし」が20社で、「個別目標はあるが全体目標はない」という回答が1社。明確に目標を定めているのは34%余りにとどまっていることが分かりました。

ただ、「なし」といっても、静岡新聞・静岡放送のように「温室効果ガス削減目標はないが、2015年比でエネルギー量を15%削減(毎年1%以上の削減)」という独自の目標を設定しているところはあります。

一方で、最も力強く目標を掲げているのが日経BP。「温室効果ガス(GHG)排出を実質ゼロにする『カーボンゼロ』の目標を設定」しています。2030年までにスコープ1・2の実質ゼロを、50年までにはスコープ3も含めた実質ゼロを目指すそうです。

専門用語が出たので、ここでちょっと解説しておきます。
「スコープ1」とは燃料の燃焼や、製品の製造などを通じて企業・組織が直接排出するGHGのことを指します。
「スコープ2」は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、間接的に排出されるGHGが対象。
「スコープ3」は、原材料仕入れや販売後に排出されるGHGです。
詳しくは資源エネルギー庁のサイトをどうぞ。

資源エネルギー庁のサイトより

また、テレビ朝日は設定した目標と、排出量の実績値をホームページで積極的に公表しています。

テレビ朝日ホールディングスのサイトより

ただ、「スコープ3」の目標を策定できた企業はほとんどありませんでした。策定のためには資源調達や流通含めたライフサイクルでのCO2排出量の見える化が必要で、目標策定自体のハードルがメディア企業に限らずそもそも高いようです。

経営層が自ら担当しているかどうかが重要

目標はなくても、前向きにやろうという姿勢が表れていたのが、こちらのアンケート結果。「気候変動問題の担当部署はありますか」と尋ねたところ、「ある」のは22社で、「ない」は10社でした。68%余りの社には担当者がいるんですね。

さらに担当役員はいるのかと尋ねたところ、トップ自らがというところも多く、BuzzFeed JapanはCEOが実行委員会のHead、朝日新聞テレビ朝日も社長がサスティナビリティ委員会の委員長に。秋田テレビも代表取締役社長が担当で、中部日本放送(CBCグループ)も各社長が「SDGs推進プロジェクト会議」のメンバーだそうです。

このほかにも6つのメディアで、役員クラスを担当者としていました。トップや役員が自ら担当になっているメディアの場合、3つを除いてすでに「排出削減目標」を設定しており、経営層のコミットメントが重要であることが浮かんできています。

進捗状況を尋ねてみると、なんとスコープ2まで「カーボンゼロ」達成の社も!

目標達成の進捗について質問したところ、18社が再生可能エネルギーを導入したと回答しました。中には、顕著な結果を出しているところも。

まずは福島中央テレビ。自社に使用する電力を100%再エネにしたのだとか。原発事故もあってのことでしょうか。このほかにも、自社の食堂で発生する食品残渣をたい肥化する取り組みなども行っているそうです。

先に目標を紹介した日経BPも、2022年に本社ビルの電力使用量をすべて再エネ由来に切り替えたとのこと。

ハースト婦人画報は、スコープ1・2については、再エネを導入することで、「カーボンゼロ」を達成したとのことです。スコープ3についても、14の定期刊行誌すべてでの印刷・製本といった部分の電力は再エネ化をしているということです。

専門家はどう見た

ここまでのアンケート結果をどう見るか、専門家にも意見を聞きました。

株式会社ニューラルのCEOで、サスティナビリティ経営に詳しい戦略・金融コンサルタントの夫馬賢治(ふま・けんじ)氏は、「気候変動に関するメディアの関心が高まっていると感じた」としつつも、スコープ3を含めた削減目標の設定を終えたところは日経BPのみだったと厳しい評価もしています。

「企業が進むべき姿を、率先して伝えていくことがメディアの役割だと理解しています。メディア自身がその意義を理解して、気候変動を解決しうる社会に向けてお手本となる存在になってくれることに期待します」

東京大学 未来ビジョン研究センターの江守正多氏も「メディア各社は、ぜひ横のつながりを持って、フロントランナーの側に足並みをそろえてほしい」と述べます。

「脱炭素を明確に意識した経営をするメディアがいくつか出てきているのは心強く感じました。他の業種と同様に、大企業は敏感で、地方はまだこれからのところも多いという印象です。自らが脱炭素化に取り組む上での挑戦や工夫や情熱や成功体験を社会に広く発信することを含め、社会全体の脱炭素化を牽引する役割がメディアにはあると思います」

次回の記事では、電力を特に消費するテレビ局の取り組みや、気候変動について、どれほど各メディアが発信してきたかいついて、アンケートの結果を取り上げます。

今回の調査の目的は、メディアの脱炭素への取り組みを可視化し、メディア各社の脱炭素化状況の把握をすることです。また、各社状況をお互いに把握することで、結果的にメディア自身の脱炭素化を促進することにも繋がります。報道機関も社会とともに気候変動問題の解決に向けて活動していることを明らかにすることで、気候変動報道の強化や信頼性向上にも寄与すると考えます。

気候変動問題の解決には地球規模の社会変革が必要。全ての人が「我が事化」するにはどうすれば。メディアはどう視聴者や読者に届けていくべきなのか。そんなことを考えるシンポジウムが1月31日に開かれます。ぜひご参加を。


一般社団法人Media is Hope

気候変動を解決できる社会を実現するために、気候変動報道強化に繋がるさまざまなサポートを行う団体。「メディアをつくる側もえらぶ側もお互いに責任を持ち、公平で公正かつ自由なメディアと持続可能な社会の構築」をビジョンに掲げ、気候変動の本質的な解決を目指して、メディアや市民、企業やあらゆるステークホルダーが共創関係を築く架け橋となる活動をしています。