大調査 確定申告で政治献金を取り戻す国会議員たち②取材に無回答の与野党21人の議員名を明らかにする…不可解な回答のケースも(全3回)
(スローニュースより)国会議員が自分の政党支部に寄付して所得税の還付を受ける。こんな姑息なことがまかり通っています。
実はこのやり口、2021年5月にフロントラインプレスが全ての国会議員について調査し、明らかにしています。記事はスローニュースの前のサービスに掲載されたもので、現在は読めなくなっているため、政治とカネの問題が問われている今回、当時の記事の主要部分を再掲載することにしました。(肩書などは全て当時のもの)
フロントラインプレス
21人は取材に「無回答」 誠実さなし
「選管の確認印が押された書類」を受け取った国会議員39人は、①実際に税額控除を申請したのか②申請した場合はコメントを、書類を受け取ったのに申請しなかったのならその理由を――という2つの質問にどう答えたのだろうか。そもそも、自分の政党支部に寄付を行い、それによって所得税の還付を受けることを立法府の人間としてどう考えているのだろうか。
繰り返すが、この書類は政治献金について、確定申告の際に所得税から還付してもらうために必要なものだ。それ以外に使用目的はない。したがって、この書類をわざわざ選管に作ってもらったということは、その政治家が政治献金を還付してもらう意図を持っていたということである。
質問に回答しなかった国会議員は21人を数える。「政治とカネ」にまつわる自らの行為が問われた際、通常、最も多いのがこの「無回答」だ。説明責任の放棄である。後ろめたいことがあるから回答しないのだろう、と思われても仕方あるまい。
無回答だった21人の名前を改めて政党別に示しておく。前掲の表で言えば、ピンク色の枠で囲った議員たちである。数字は、税額控除を申請していた場合に実際に還付される金額であり、その対象年は丸かっこ内に示した。
【自由民主党の無回答=15人】
<衆院>
菅家一郎氏=福島4区、約827万円(2015、17、18、19年)
亀岡偉民氏=福島1区・比例復活、約1050万円(2015〜2019年の5年連続)
鈴木憲和氏=山形2区、約105万円(2015〜2017年の3年連続)
葉梨康弘氏=茨城3区、約60万円(2015年)
井野俊郎氏★=群馬2区、約1095万円(2015〜2019年の5年連続)
赤間二郎氏=神奈川14区、約90万円(2015年)
若宮健嗣氏=東京5区、約240万円(2018年)
江崎鐵磨氏=愛知10区、約163万円(2015年)
上野賢一郎氏★=滋賀2区、約388万円(2015、16、17、19年)
小林茂樹氏=奈良1区、約174万円(2017、2018年)
田野瀬太道氏★=奈良3区、約900万円(2015〜2019年の5年連続)
山下貴司氏★=岡山2区、約120万円(2015年)
岩田和親氏★=佐賀1区比例復活、約436万円(2017年)
<参院>
豊田俊郎氏=千葉選挙区、約60万円(2015年)
磯崎仁彦氏★=香川選挙区、約555万円(2016、18、19年)
以上が「無回答」だった自由民主党の14人である。
この調査報道は、租税特別措置法の優遇制度を政治家本人が使うことの是非を問うものだ。したがって、還付された可能性がある金額の多寡を指摘することが、第一の目的ではない。それでも、亀岡氏や井野氏のように、還付申告を実行していれば1000万円以上が手元に戻ってきたケースを見せつけられると、「これはいったい、何なのか」という思いを拭えない。
また、上記では井野氏ら6人には★印を付した。これらの議員は2019年までの過去5年間、寄付は政党支部に集中させており、資金管理団体と後援会には寄付していなかったことを示している。政党支部への寄付のみが還付の対象になるという“抜け穴”を知っていたため、このような形になった可能性がある。
【立憲民主党の無回答=6人】
<衆院>
佐々木隆博氏★=北海道6区、約168万円(2016〜2019年の4年連続)
<参院>
青木愛氏★=比例代表、約509万円(2017〜2019年の3年連続)
森裕子氏=新潟選挙区、約479万円(2015、2016年)
宮沢由佳氏=山梨選挙区、約90万円(2016と2018年)
武内則男氏=四国ブロック比例単独、約60万円(2017年)
川内博史氏=鹿児島1区、約208万円(2016年と2019年)
このうち、例えば、佐々木氏に対しては、質問のファクスを議員会館の事務所に送った後、送信確認の電話を入れたところ、誰も出なかったため、旭川事務所に改めてファックスを送信した。その上で「質問に答えてほしい」旨を旭川事務所に電話で伝えた。しかし、期限までに回答はなかった。
佐々木氏と青木氏の2人には★を付した。自由民主党の項で説明したように、★印の議員は2019年までの過去5年間、資金管理団体や後援会への寄付がなかった。寄付先は、自らが代表を務める政党支部のみである。政党支部への寄付だけが還付の対象になるという“抜け穴”を知った上で、この制度を利用した可能性がある。
以上のように、自由民主党の15人、立憲民主党の6人が質問に対して回答を示さなかった議員たちである。いずれも「ナシのつぶて」状態だった。政治家には有権者に対する説明責任がある。国政全般を預かる国会議員には、国民全体への説明責任がある。国民の代表として国会に乗り込んでいる以上、説明責任は何にも増して重いと思われるが、これら議員、あるいは秘書や事務所員にそういう考えはなかったようだ。
もちろん、「無回答」組の国会議員は、それでただちに「実際に還付金を受け取った」ことを意味しない。開示請求で判明するのは、あくまで「控除の書類を作成し、選管の確認印をもらった政治家」である。
「自分は控除書類を受理したが、実際の申請はしていない」「一覧表と記事から名前を削除してほしい」といった国会議員が、これら無回答の21人の中にいるのであれば、今からでも説明責任を果たしてほしいと思う。
方法は簡単だ。寄付をした当該年分の確定申告の内容確認票に記された「政党等寄附金等特別控除」の欄を示すだけでよい。紛失するなどして手元にない場合、確定申告を行った税務署で自己情報開示の請求をすれば、内容確認票を開示してもらえる。
「書類は作ったが控除申請はしていない」…?
では、実際に回答してくれた議員たちには、どんな言い分があるのだろうか。内容ごとに見ていこう。思わず首をかしげたくなる回答もあったが、「無回答」よりも政治家としての姿勢は何倍も誠実だ。
まずは、「税額控除のための書類は作成したが、確定申告の際には使用しなかった」というパターンだ。先述した通り、この書類は議員側が作成し、選管に提出してその確認印をもらうことで確定申告の際に有効な書類となる。議員側が何もしていないのに、選管が進んで書類を届けてくることはあり得ない。
衆院議員の下条みつ氏(長野2区、立憲民主党)は2016、17、18、19年の4年分の寄付について控除の書類を受け取っていた。寄付金合計は1764万7233円。控除を申請した場合は、計約529万円が戻ってきたことになる。
下条氏からの回答ファクスには「還付金を受け取っておりません」とだけ書かれていた。税額控除の申請に必要な書類は手にしたが、確定申告の際、政治献金分の税額控除は申請していないという説明である。
フロントラインプレスからの質問書には「書類を受け取りながら申請しなかったとするなら、その理由について」教えてくださいとも記していた。この2つ目の質問には答えていなかったため、その部分の回答をお願いしようと議員会館の事務所に電話すると、「質問はファクスで」とのこと。そこでファクスに以下の趣旨を記し、送信した。
「いずれの寄付についても寄付金控除を受けていないのなら、なぜ4年も連続して『寄附金(税額)控除のための書類』を作成して、選管から確認印をもらうことを行ったのでしょうか。一般の方々はたいへん不思議に思うのではないでしょうか」
「いずれの寄付についても控除を受けていないと主張されるのなら、直近の2019年分の確定申告の書類をご提示願えませんか。その書類の寄付金控除の欄を見れば、控除申請したか否かが分かります」
これらの質問に対する回答は、下条氏側から寄せられていない。
下条氏と同様、選管に書類を作ってもらい、受け取ったが、実際には使わなかったとする立憲民主党議員はほかにもいる。
衆院議員の宮川伸氏(千葉13区・比例復活)は初当選する前、立候補予定者の段階だった2015年に自らが代表を務める政党支部に計200万円を寄付し、その控除の書類を選管から受け取った。実際に申請していれば、約60万円が還付されたことになる。
宮川氏からはファクスで「議員となる前の時期に、私費を寄付して控除の適用を受けたことはありますが、法律に則り適切に処理しております。議員当選後、控除の適用は受けていません」という回答があった。
衆院議員の原口一博氏(佐賀1区)は2017、18年の寄付について控除の書類を受け取っていた。寄付金合計は562万円。実際に控除を申請していれば、計約168万円が還付された計算になる。
原口氏の男性秘書はこちらが指定したファクスでもメールでもなく、電話で回答してきた。そのやりとりは、おおむね以下の通りだった。
「ファクスを見たけど、うちは控除を申請してないから。まずいと思って控除受けてないから」
――控除に使わない書類をなんで、2年連続して受け取ったのですか。まずいと思ったなら連続して受け取らないのではないでしょうか。連続して選管から書類を受け取った理由は何ですか。
「受け取ったと言われても、うちはそんな書類、求めてないよ」
――控除のための書類は、議員さんの側が作成して選管に提出して(確認)印を押してもらうんです。求めてないものを選管が出すはずないじゃないですか。
「とにかく、控除は受けてない。それが答えだから」
――ファクスかメールで回答してくれませんか。こっちの質問への答えを。電話だと後から『言った』『言わない』の話になりますから。
「この電話でいいじゃない。控除は受けていない。それが答えだから」
取り付く島もないといった状態で原口氏の男性秘書は電話を切った。説明責任をきちんと果たそうという誠実な姿勢は感じられなかった。
控除のための書類を作成したのに確定申告では使わなかった――。このような説明は、自由民主党の国会議員からも相次いだ。
まずは、衆院議員の笹川博義氏(群馬3区)。
笹川氏は2015、16、17、18年の寄付について、4年連続で控除の書類を選管から受理している。記載された寄付金合計は4400万円で、控除申請することによって計約1320万円が戻ってきたことになる。過去5年間、寄付は政党支部に集中しており、資金管理団体と後援会への寄付はなかった。このため、政党支部への献金のみが控除の対象になることを熟知していた可能性もある。
笹川氏からはメールで「(控除の)申請はしていない」と回答があった。ところが、「選管から書類を受け取りながら、税額控除を申請しなかった理由は?」という趣旨の質問に回答がない。そこで国会議員会館の事務所に電話し、笹川氏の男性秘書に取材した。やりとりは以下の通りだった。
――申請していない、とだけ回答されていますが、なぜ申請しなかったのですか。
「なぜ、と言われてもとにかく申請していないんだから」
――その回答では、なぜ、4年連続で選管から書類を受け取ったか分からないです。いずれの年も控除申請していないのなら、なぜ毎年、書類を作成していたのでしょうか。
「書類を作成って言ったって、向こう(選管)が勝手に送ってきたものだから」
――いや、選管が勝手に送ってくることはあり得ません。そちら(政党支部・議員側)が作成しないと、選管は確認印を押せないんです。
「とにかく、こっちの回答は『申請していない』だから。申請しなかった理由は『回答なし』でいいから」
選管から控除のための書類を受け取ったものの、道義的にまずいと判断し、実際には申請しなかった、と説明する自由民主党の国会議員もいた。計5人。高野光二郎氏以外は、全員が衆院議員である。
中根一幸氏(埼玉6区・比例復活)は、2017年の寄付計110万円について控除の処理を受け取っている。還付金の額は約33万円だった計算だ。
中根氏からはファクスで「寄付控除の書類を埼玉県選管から受理しておりますが、税額控除の手続きは取っておらず還付金は受け取っておりません」という回答が届いた。議員会館の事務所に電話し、控除申請しなかった理由を尋ねたところ、男性秘書は「道義的にまずいことだと思って申請しなかったということです」と答えた。
奥野信亮氏(近畿ブロック・比例単独)は2015、16年の寄付計400万円について控除の書類を受け取っている。書類の受け取りは2年連続、還付金の額は約120万円となる。政治団体と後援会には寄付していない。
奥野氏からはファクスで「税控除のための書類を使用した税控除の申請はしておりません」という回答が届いた。ファクスにはその理由も記されていた。以下のような内容である。
「使用しなかった理由は、それより(2015、16年)以前に税控除を受けることが、不適切との世論があったからです」
(第3回に続く)