「生まれて初めて本を読んだ」Z世代を開拓し、ヒット作品を連発するスターツ出版の徹底した書籍マーケティング
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スターツ出版、Z世代を中心に読書文化の需要を創造…売上高・営業利益は当初計画を大きく上回る
映画化も大ヒットしたミリオンセラー『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら』を手掛けた中堅出版社、スターツ出版。そのスターツ出版の決算発表資料が出版関係者の間で話題になっています。
出版不況といわれるなかで、Z世代の支持をえてここ数年業績を拡大し続けている同社の手法を明かしているからです。
2024年2月19日に発表された、同社の2023年12月期決算の説明は、ネットメディアのログミー・ファイナンスが書き起こしています。付け加えるとログミーファイナンスは同社の協力のもとコンテンツ化しており、いわゆる「こたつ記事」とは異なります。
まず驚くのはスターツ出版の業績の好調さです。2023年12月期の売上高は当初計画の63億円を大きくうわまわり83億4100万円にのぼります。営業利益も当初計画の11億円に対して、その倍以上の22億7300万円で着地しています。
特筆すべきは、そのうち書籍コンテンツ事業が51億2800万円を占めており、さらに毎年、右肩上がりの急成長をしていることです。
ちなみに、出版市場はピークの2006年に2.5兆円を記録して以降は、新型コロナによる巣ごもり需要をのぞけば右下下がりで2023年には1.4兆円にまで縮小しています。その中での快進撃です。
その成長の秘訣は、書籍読者の中心といわれる団塊の世代には目もくれず、「タイパ志向」、「デジタルネイティブ」で「本を読まない」と思われてきたZ世代にターゲットを絞っていることです。
具体的には、「読者」と同世代の20代の編集者が作家と二人三脚で作品を制作し、さらには営業と編集が1つのチームとなってマーケティングから一緒に行っています。
ほかにも小説投稿サイトをつかった書き手の発掘、育成の仕組みや、読者ターゲットを細分化し、レーベルをブランド化する手法は大変興味深いです。詳細は、ぜひログミーを読んでみてください。
同社の書籍コンテンツいは、Z世代から「生まれて初めて紙の本を買った」「生まれて初めて単行本1冊全部読み切った」というコメントがあがっているそうです。
書籍は書き手の思いが強く、ややもするとプロダクトアウトになりがちです。その中で、徹底的に若い世代に絞ったマーケティングにもとづくコンテンツ制作し、それをヒットさせてきたスターツ出版。その手法は、出版業界ならずとも参考になります(瀬)