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新型コロナウイルスで日本人の「悲しい」「不安」が変わったーー「気分観測データ」が示す「社会の後遺症」

文:萩原雅之

「ロングコロナ」という後遺症

2023年5月のゴールデンウィーク明けに新型コロナウイルスが5類指定となり、約3年半にわたる流行は、形の上では一区切りついた。その後も第9波、第10波、この夏の第11波が観測され流行が収まったわけではないが、報道はほとんどなくなった。消費、イベント、外食など社会的には新型コロナウイルス前の日常にもどったかのように見える。

一方、新型コロナ感染後に軽度の後遺症を抱える人々が少なくない。これらの後遺症は「ロングコロナ(LongCovid)」と呼ばれ、軽い疲労感や息切れが発症後1年以上つづくケースもあるという。

そして、実は日本社会や日本人全体もまた、こうした目に見えづらい後遺症を抱えてしまっている。

今回取り上げるデータから、新型コロナ収束後も日本人の感情からポジティブ気分が回復せず、かつ社会的な出来事や情報に対する感情の起伏が非常に大きくなっていることが明確になった。

感情や気分をどのように測定するか

今回紹介するMacromill Weekly Indexは、大手調査会社のマクロミルが2013年以来欠かさず毎週測定している定点アンケート調査だ。12年以上、600週分のデータが蓄積されている。私も調査開始時から設計や分析に関わってきた。

消費実態や景気に関する肌感覚に関する質問が中心で、官公庁や海外メディアにもデータを提供している。(調査概要については文末を参照)

この調査には「この1週間、どのような気分で過ごしたか」をポジネガふくめて8つの選択肢から選んでもらう設問がある。消費は気分や感情が動かすという問題意識で追加したもので、ほかに類をみないユニークな試みという自負もある。

私たちはこのスコアを「パブリックセンチメント」あるいは「国民総感情」という言葉で呼んでいる。

設問ではポジティブ気分として「うれしかった」「楽しかった」「落ち着いた」「わくわくした」の4項目、ネガティブ気分として「悲しかった」「腹が立った」「憂鬱だった」「不安だった」の4項目、計8項目からあてはまるものを複数選んでもらう。ひとり平均で 1.4個の項目にチェックするという傾向は、開始以来変わらない。

2013年にスタートして数年間は、変動が少なく周期的な傾向しかないので、地味なデータであった。状況が一変したのが2020年の新型コロナの流行後である。

気分観測データに現れた劇的な変化

まずは全体像をみるため、ポジティブ4項目とネガティブ4項目の2013年以降の推移を示した。(図表1,図表2) 

この時系列データを 1) ビフォアコロナ期(新型コロナの流行前、2013年4月~2019年12月)、2) コロナ流行期(2020年1月~2023年4月)、3) アフターコロナ期(5類指定後、2023年5月以降)に分けて考える。

図表1 ポジティブセンチメント(4項目)の推移

2020年から劇的に「楽しかった」が減少した

図表2 ネガティブセンチメント(4項目)の推移

コロナ以降は振幅が激しい

ふたつのチャートからは、以下の傾向を読み取ることができる。

  1. ビフォアコロナ期はポジティブ気分がネガティブ気分を常に上回っていた。「楽しかった」が常にトップで4割近くをしめる。正月、ゴールデンウィーク、お盆休みのころにはその比率が高まり周期的なパルスが見られた。

  2. コロナ感染期が始まった2020年春以降、「楽しかった」「うれしかった」などのポジティブ気分は激減した。一方、「不安だった」「憂鬱だった」などのネガティブ気分が支配的になった。2020年4月の第1回目の緊急事態宣言をピークに、その後はポジティブ気分とネガティブ気分がほぼ半々の水準で推移した。

  3. アフターコロナ期に入っても、ポジティブ気分は回復していない。ビフォアコロナ期の状況には戻らず、コロナ流行期に近い状況が1年以上経過した現在も続いている

2023年5月の5類移行によって、ほとんどの日本人はふだんの生活で新型コロナを意識することはほとんどなくなっている。行動様式や生活はコロナ前に戻ったのに、気分はコロナ期のままならば、私たちの感情構造に不可逆的な変化が起こったと考えるのが自然だ。

感情の起伏が大きくなっている

気分観測データに見られるもうひとつの変化は、ネガティブ感情における起伏(ボラティリティ)が非常に大きくなったことである。

新型コロナに直接かかわることはもちろん、関係のない大きな事件や災害、著名人の死去など報道される社会的な出来事に対して「悲しかった」「不安だった」などのスコアが跳ね上がるようになった。

「悲しかった」「不安だった」という気持ちはコロナ前とどう変わったのか。社会はこの変化にどう接すればいいのか。ここからは会員向けになります。これを機会にぜひご登録をお願いします。

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