「事業承継」という流行りのスキームに乗ったら「地獄に突き落とされた」…M&Aの闇を描いたスクープ
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
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M&A仲介の罠
事業は順調で黒字だけど、経営者は高齢化して後継者もいない。そんな中小企業を、外部の人が引き継ぐ「事業承継」という仕組みを利用するケースが活発になっています。
店のブランドや培ってきたノウハウも生かせるとあって、中小企業庁も後押ししていますね。意欲がある若い人が地方の老舗を引き継いで大成功、なんてケースもメディアでは紹介されています。廃業なんてもったいないというお店もたくさんあることでしょう。
とはいえ、いいことづくめとは限りません。事業承継をしようとしたらとんでもない事態に陥り、逆に会社が潰れてしまうというケースも出現していました。いったい、何が起きているのか。朝日新聞で経済分野の調査報道に取り組む藤田知也記者による新たなシリーズが発信されています。
事業承継は、そもそもがM&A=企業の合併・買収によって行われるものです。企業を引き継いでほしい「売り手」と、経営に乗り出したい「買い手」がいて成り立つわけですが、そのM&Aの過程に問題があるようです。
3店舗と工房を引き継いでもらおうとした老舗洋菓子店。創業53年の機器の設計会社。いずれもM&Aの手続きの途中で預金などが相手に渡ったあと、契約が履行されず、逆に店や会社が潰れてしまう事態に。「地獄に突き落とされた」というその経過で何が起きたのか、有料記事なので詳しくは本編の方でどうぞ。
連載の第3回では、こうしたトラブルが相次いでいる買収会社の共同代表で20代のY氏を直撃しています。Y氏の口から語られたのは、若さを「お飾り」として使われ、「現預金を引っこ抜く作業」をしていたとんでもない実態でした。
A社がこんなことを連発できたのは、M&Aを仲介する業者の存在です。どんなトラブルがあろうと、次々と事業承継をしてほしい会社に買い手のA社を紹介していきましたが、責任を問われることはありませんでした。
M&Aを促す側は本当にほうっかむりでいいのか。さらにこの事態に中小企業庁も何らかの対応をしないのか。この報道が警鐘を鳴らし、さらなる犠牲者が生まれないよう望みます。(熊)