『親ガチャ』をどうやって乗り越えるのか?遺伝子がいかに社会的不平等を生み出すかを学ぶ
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
きょうのおすすめはこちら。
『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』
「今日の必読」は今年最後ということで、この1年出会ったノンフィクションの中からおすすめの一冊を紹介します。
『遺伝と平等 人生の成り行きは変えられる』(キャスリン・ペイジ・ハーデン著、青木薫訳、新潮社刊)が、その本です。
「親ガチャ」という言葉が巷間広まっています。嫌な言葉ですが、人生のある側面を表している事実でもあることは否めません。人は生まれたときにふたつのクジをひきます。生まれた地域や親の収入といった「社会的環境」、そして遺伝子にもとづく「遺伝的環境」です。
遺伝的環境がその後の人生にどういう影響を与えるのか。たとえば能力や健康にどうつながるのか。一つ間違えると「優生思想」や「レイシズム」に直結すると危険視されてきたこの問いに、「遺伝と学歴」や双子の研究をしてきた心理学教授のハーデンが正面から挑んだのがこの本です。
筆者はリベラルな立場から膨大なデータと科学的な態度をもとに、遺伝子がいかにして社会的不平等を生み出すかを解き明かしていきます。その現実に目を背けることを、「ゲノムブラインド」と指摘します。
遺伝子の「ガチャ」を知ったうえで、どういう社会設計をしていくのか。本当に公平な社会をどうつくっていくのか。たとえば、みなが同じ能力をもっているということを前提にした「公平な教育」のあり方などは見直す必要が出てくることを、この本では示唆しています。
「自己責任」「能力主義」が声高に叫ばれる、いまの日本社会の方向性も、当然、この問題に向き合わずには議論はできません。
年末のお休みにもう一度、読み返したい一冊です。(瀬)