Twitterの「特定のメディアを優遇」「ヘイト放置」は本当だったのか?証言で浮かび上がった真相とは
去年7月に「X」と名称を変えるまで「Twitter」という名称で知られたソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)。利用者が多い日本では、マンスリー・アクティブ・ユーザー(MAU=月に1回以上利用する人の数)が6000万人を超えるという。もはや凡百のメディアを超える拡散力を持った装置は、この国の言論空間だけでなく、社会活動や政策にさえ影響を与えているといっていい存在だ。
そんなSNSには、常に疑惑がつきまとってきた。
「特定のメディアだけ表示されるよう、優遇していたのではないか」
「なぜヘイトが放置されているのか、どういう基準で削除しているのか」
いずれもサービスの信頼性の根幹にかかわる問題だが、Twitter社がユーザーに対して十分な説明をしたことはない。
今回、内部の関係者への取材に成功。その知られざる実態が浮かび上がってきた。
スローニュース取材班
結論から言おう、「一部のメディア優遇」は存在していた
「特定のメディアだけがやたら表示される」
「おすすめ欄に一部のメディアが目立つ」
そんなユーザーの声が以前から上がっていたが、こうした疑問に対してTwitter社が十分なアナウンスメントをしたことはない。実態はどうなのだろうか。
結論から言うと、一部のメディアだけが優遇されている状態は、確かに一時期、存在していた。(それがどのメディアで何が起きていたのかについては後述する)
現代のプラットフォーマーが恣意的な選択を行うようなことがあれば、多くの人が受けられる情報が偏ってしまうおそれがあるという問題が、今回の取材で初めて明らかになった。
ただ、ネット上の一部で流れていた憶測とは違う部分もあるので、そこは強調しておきたい。
その憶測とは、イーロン・マスク氏がTwitter社を買収したあと、「Twitterの中に左寄りのメディアを優先してた人たちがいて、イーロン・マスク氏が左メディアを排斥したとこで、彼らはクビになった。だから表示のされ方に変化があった」というものだ。
それが全くの見当違いだったということも、今回の取材で判明した。
むしろ社を離れたのは、一部のメディアに偏っていた状態を是正し、本当の意味で信頼がおける情報空間を作ろうと尽力していたメンバーたちだったのだ。その多くが社を離れてしまった。
SNSという情報空間の支配者がもたらす新たな危険性と、その裏側で何が起きていたのかを明らかにしよう。
グローバルのお眼鏡にかなう日本のメディアがなかった
今回、接触できたTwitter Japan内部にいた複数の関係者の話を総合すると、とにかく日本国内でのサービスの運用は基本的にはグローバルの方針に従って行われ、Japanが単独で決められることは多くはなかったという。グローバルの担当者とのキャッチボールで多くのことが実行されていた。
メディアとの協業についても、その一つに挙げられる。日本のメディアとより協働しようとしても、グローバルスタンダードに達していないと判断されたり、メディア側の理解を得られなかったりということもあった。グローバル側の要望にかなうメディアがあれば、Twitterの持つ様々なサービスで協業しようという計画があったが、結局は実現しなかった。
例えば、「ファクトチェック」。アメリカではAP通信などと連携をとっていた。いまでこそ日本にもファクトチェックをする団体が増えてきたが、当時はお眼鏡にかなう存在はなかったという。
日本の大手メディアは、「自分たちはファクトチェックとは名乗ってはいないが、事実関係を厳密に確認して報道しているので、ファクトチェックと同等だ」という姿勢で理解を示さなかった。当時はネット上の言論をファクトチェックしようという姿勢も、あまり見られなかった。
これは余談だが、実は今も総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保のあり方に関する検討会」での議論では、大手新聞社はそういう発言をしており、考え方は大きくは変わっていないようだ。
Japan側からは、信頼性と公共性という観点から選んだ複数のメディアの名前が具体案として挙がっていたということだが、どちらも当時はファクトチェックなどに正面から取り組んでいなかったこともあり、これも実現はしなかったようだ。
メディアのアカウント「優遇していたのは事実」
では、メディアのアカウントはどのように扱われていたのか。
実はTwitterの内部では、「実績のあるメディアのアカウント」や、「優秀なジャーナリスト」のアカウントは優遇されていた。
例えば「オスプレイ」と検索したとする。オスプレイに関しては賛否両論があり、さまざまな投稿がなされているが、その中からメディアがオスプレイについて投稿したツイートが上位に表示されるようにしていた。「よりトラストで質の高い情報にユーザーが触れられるようにする」というのがその理由だったという。
いちいち手作業で行うのではなく、アルゴリズムで自動的に上がるようにしていた。その基準となったのが、当時の「青色のメディアバッチ」だ。それが付いていると、自動的に上位に表示される。
では、その青色のメディアバッチを、誰が付与していたのか。
どのアカウントにメディアバッチを付けるかは、権限を付与されたほんの一握りの社員が決めていたという。
「彼らに権限があったとはいえ、恣意的な運用はしていなかったと思います」(旧Twitterの社員)
新聞、通信社、テレビ局で、信頼に足るニュースを発信しているアカウントについては優先的にメディアバッチをつけていたという。
一部のメディアに偏っていた時期も
ただ、Twitter Japanの体制が拡充されるまでの間、当初は一部のメディアにだけにバッチがついていた時期があったことが判明した。