見出し画像

世界初の「線虫がん検査」は本物か?ユニコーン企業を徹底調査したNewsPicksの科学報道

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

【スクープ】世界初の「線虫がん検査」、衝撃の実態

「線虫をつかってがんのリスクがわかる」ーーそんな画期的な検査の記事を読んだり、テレビCMで知った方も多いのではないでしょうか。

しかし、経済ニュースメディア『NewsPicks』が、「世界初の線虫がん検査」を展開するスタートアップ企業「HIROTSUバイオサイエンス」社について、重大な疑惑を指摘する調査報道を9月11日から6回にわたって掲載をしました。

HIROTSUバイオサイエンスは、尿でがん検査をするサービスを提供するスタートアップです。同社のがん検査サービス『N-NOSE』では、利用者は検査キットで尿を採取し、窓口に持ち込みます。体長1ミリメートルの線虫という生物を使った技術で、尿から15種類のがんの有無を検知する、という触れ込みです。

この検査が画期的であると評価され、日本経済新聞やテレビ東京「ガイアの夜明け」などでも取り上げられてきました。時価評価で1000億円を超える「ユニコーン企業」ともいわれています。

しかし、少量の尿を提出するだけでがんのリスクが判定できるというこの検査の精度については、これまでも医療関係者やメディアなどから疑問の声が上がっていました。週刊文春も2021年に「『尿一滴でがんがわかる』で話題 線虫がん検査『精度86%』は問題だらけ』という報道をしています。

今回、NewsPicksが立ち上げた調査報道チームは、同社の関係者、退職者を取材、入手した内部資料や関係する論文を精査し、その検査の精度が広告などでうたっている数字を大きく下回るという疑惑を指摘しています。

たとえば、ある研究者の学会発表では、がんと診断されたばかりの10人の患者の尿でN-NOSEを受けたところ、10人全員が低リスク(陰性)という結果が返ってきたというのです。がんなのにがんではないという「偽陰性」の結果が出たのです。

この調査報道の中心になっているのはNewsPicks副編集長の須田桃子さん。須田さんは前職である毎日新聞科学環境部の記者時代の15年に『捏造の科学者 STAP細胞事件』(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した科学ジャーナリストとして第一人者です。2020年にNewsPicksにジョインをしています。

この記事をうけて、HIROTSUバイオサイエンスは自社のホームページで「科学的に明らかに誤った記事について」という反論をのせています。

その中では、

 科学的に誤りのある報道の訂正内容は、弊社のコーポレートサイト等を通じて公開することを予定しております。

と、あるものの、具体的な記事の内容を否定するようなデータや事実は、いまのところ特に示されていません。

HIROTSUバイオサイエンスの創業者である広津崇亮・代表取締役はもともと研究者であり、九州大学大学院理学研究院生物科学部門助教を経て、2016年にこの会社を設立しました。同社は多くの大学や医療機関と臨床研究などをおこなっています。アカデミズムや医療機関が、今回の指摘をうけてどういう対応をするのか、注目しています。(瀬)

(NewsPicks  2023/9/11)






みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!