ファシスト・ファッション ~大手のサービスが極右商品の販売を可能にしている
取材・執筆:フォエク・ポストマ
翻訳:谷川真弓
極右のファッション商品は、過激派団体を宣伝すると同時に、資金調達の手助けもする。人種差別主義やヘイト関連コンテンツの宣伝を禁じるポリシーを掲げる大手企業が提供するサービスによって、商品の販売が可能になっているケースもある。
ベリングキャットの調査により、多数の極右およびネオナチのオンラインストアが、公然と大手決済システム業者、商業コンテンツ管理システム、そしてウェブ・ドメイン登録業者が提供するインフラストラクチャーを利用してきたことが判明した。
また、いくつかの極右オンラインストアが、多様性や平等を掲げる卸製造業者から衣類を購入し、ヘイトに満ちた独自のメッセージをプリントし、販売して利益をあげているらしいことを突き止めることもできた。
極右団体のいくつかは、主流のソーシャルメディア・プラットフォームを、自分たちのオンラインストアや仲間の極右団体が運営するストアへのリンクを拡散するために使っている。
ベリングキャットが観察した複数の極右団体は、インスタグラムにアカウントを持っていたが、投稿内容はプラットフォームのルールに違反しないよう慎重に選ばれていた。しかし、一部のアカウントは、インスタグラムの外部へのリンクを掲載していた。リンク先は、彼らがナチスや人種差別関連のシンボルがプリントされたファッション商品を宣伝・販売するにあたり拠点としている、SNSテレグラム・チャンネルやオンラインストアだ。
極右オンラインストアには、ファシズムやナチズムをさりげなくほのめかしたり、暗号化したりしているデザインの衣類もあった。例をあげると、第二次世界大戦中に著名なナチの高官が使っていたことで知られる城の地図座標をあしらったデザインだ。
上記のTシャツが販売されているウェブサイトは、ドメイン登録を大手ドメイン登録業者GoDaddyで行っている。だが、GoDaddyは以前に人種差別や同性愛嫌悪に反対する声明を発表しており、著名な極右団体のサービス利用を禁止してもいる。
他の極右ウェブサイトでは、Payops、Nets Easy、MolliePayments、Bungeecolud、Payseraといった決済システムを使って商品の支払いをする選択肢を顧客に提供しているようだ。
多数の極右およびネオナチ団体が、近年、様々な衣類やグッズを販売することによって資金を集め、また互いのブランドを宣伝しあってきた。
国際的な政策提言NGO「反過激主義プロジェクト(カウンター・エクストリーミズム・プロジェクト)」のハンス・ヤーコプ=シンドラー博士によると、極右オンラインストアは「極右団体が資金を調達する多様な方法のひとつ」だという。
このようなやり方には明確な利点が二つある、と博士は言う。「顧客がいる土地の司法権が及ぶ地域に物理的な店を設立する必要がないので、越境販売が容易になり、また、状況が変化した際にも簡単に適応できます」。たとえば、国や地域で取り締まりがあった場合だ。
しかし、こうしたオンラインストアは単なる資金源にとどまらない。シンシア・ミラー=イドリス教授が著作『自国のヘイト(Hate in the Homeland)』で述べるように、このようなオンラインストアが、国境を超えて極右的な言説をつなぎあわせ、イデオロギーを強化する役割を果たすことは常々指摘されてきた。さらに、極右主義者たちに、彼らがもっと大きい世界的な潮流の一部になりうるのだと認識させもする。
国際的な加害仲間
極右の衣類やグッズは、以前にも大手オンラインストアで販売されていると報道されてきた。しかし、近年、Amazon、GoogleやWishといったオンライン通信販売プラットフォームは、そうした不快な商品の削除に向けて動いている。
そのため、いくつかの極右団体は、自分たちの商品を宣伝し販売する別のやり方を探しはじめた。
SNSテレグラムのインスタント・メッセージ・サービスは、多くの極右団体が宣伝活動を行い、互いに交流する場所となっている。だがインターフェースと構造のせいで、テレグラムでは物品の売買は難しい。
よって、商品を売りたければ、極右の販売業者は、大体の場合において自分たち自身でオンラインストアを運営しなくてはいけない。
みずからオンラインストアを運営する極右業者の多くは、自分たちの衣類商品に加え、他の様々な商品を宣伝する。たとえば総合格闘技のスポーツウェア、極右的な音楽に、ウルトラス(サッカーの過激派サポーター)がよく使う発煙筒も売っていたりする。
極右団体とネオナチ団体が、他国にあるオンラインストアを一緒に宣伝しているのもよく見られる。そうした協力行動をとることで、国際的なネットワークにおける存在感が増し、人種差別的なメッセージが広められ、販売中のニッチな商品に対する潜在的な市場が拡大する。
たとえば、ナチスのシンボルをプリントしたTシャツを販売する自称ヨーロッパの国家主義団体「ヨーロピアン・ブラザーフッド」は、テレグラムの投稿で、ヨーロッパ中の「ホワイト・ライヴズ・マター(WLM)」ストアを詳細に紹介した(訳注:「ホワイト・ライヴズ・マター」は、白人至上主義者がブラック・ライヴズ・マター運動に対抗して使用する標語)。
「プライド・フランス」というブランドもある。これは格闘技と、白人至上主義およびネオナチの日常的衣類を合体させたブランドで、「2yt4u」(「トゥー・ホワイト・フォー・ユー」、つまり「お前には白すぎる」という意味)という名前のフランス語使用のウェブサイトで販売されている。
2yt4uストアでは、他の極右団体が運営するオンラインストアの商品も宣伝されている。たとえば、ウクライナの「スヴァストーン」、ロシアの「ホワイト・レックス」といった団体だ。
2yt4uストアは、ヘッダー画像に他のネオナチ団体のロゴを掲載している。そのなかには、以前ベリングキャットが調査したアメリカの白人至上主義ギャング「ライズ・アバブ・ムーブメント」のロゴもある。
いくつかのストアでは、同一のノーブランド商品がかなりの割増価格で販売されている。ベリングキャットの調査では、ある極右オンラインストアで販売されていた「警察官用グローブ」は、他の数店でも販売されていた。
グローブの画像と、商品仕様書の画像をリバース・イメージ・サーチで検索すると、同じ商品を販売する極右オンラインストアがさらに数店舗判明した。
リバース・イメージ・サーチによって、極右ブランドや極右団体とは関係がないように見受けられる軍用グッズ販売店が、同じ商品を半額に近い価格で販売しているという興味深い事実も判明した。
グローブの元の製造業者は突き止められなかったが、同一の商品が複数の極右ストアで販売されていることは、皆が似たようなやり方や戦略をとっていることを示唆する。互いの商品を宣伝し合ってさえいるのだ。
しかし、自分たちの名前と商品を目立たせるため、もっと大手のサービスに便乗している極右の小売業者もいる。
ソーシャルメディアでの立ち位置
ベリングキャットが特定した複数の極右オンラインストアは、主流ソーシャルメディアを使用しているか、もしくは過去に使用しようと試みた形跡があった。
そうはいっても、ヘイト関連コンテンツについてのプラットフォームのルールに違反しないよう、大半が主張をトーンダウンしているようだった。
たいていの極右ウェブサイトは、オンラインストアやウェブサイトのどこかにフェイスブックやインスタグラムへのリンクを掲載している。だが、フェイスブックへのリンクは切れていることが多い。以前フェイスブックにアカウントを持っていたとしても、すでに削除されたと推測できる。
しかし、インスタグラムは使いつづけるのがもっと楽そうだ。アカウントを削除されても、登録名を変え、別の見かけでアカウントを新しく取得したらしいオンラインストアが複数ある。
インスタグラムにアカウントを持ち、ガイドラインに違反するような投稿をしないことで規制を逃れている団体は、大概、プロフィール欄に、もっと過激なコンテンツが読めるオンラインストアかテレグラムへのリンクを掲載している。
ウクライナの「シュッツェンブランド」はこの戦略をとっており、インスタグラムでは「Schutzen.product」というアカウント名で、比較的害のないTシャツを1800人超のフォロワーに宣伝している。
だが、インスタグラムのプロフィール欄にあるリンクからテレグラム・チャンネルに飛ぶと、まったく違ったタイプのTシャツが多数表示される。Tシャツにプリントされているのは、「黒い太陽」、「ホワイト・パワー」ロゴ、クー・クラックス・クラン(KKK)を格好良く描いたイラスト、鉤十字をあしらったテディベアのイラストなどだ。
他のオンラインストアのインスタグラムを見ると、露骨な極右シンボルの投稿に成功しているケースもあった。ロシアの「ロスウェア」は、プロフィール欄に公式オンラインストアのリンクを掲載しているが、インスタグラムでも、はっきりと鉤十字の柄だとわかるセーターやTシャツの画像を投稿している。
ロスウェアの公式オンラインストアには、ナチス関連シンボルやヘイトシンボルがプリントされていない衣類もたくさんある。この鉤十字デザインについては、伝統的なスラヴおよびロシアの紋様だと説明されている。
しかし、ロスウェアがテレグラム・チャンネルで宣伝する衣類には、露骨にファシスト的な商品がある。
あるTシャツのデザインは、ネオナチが用いるシンボルである黒い太陽(ゾンネンラート)の上にドイツの鷲をあしらったものだ。ロシアのネオナチ・バンド「ルースキー・スジャク(ロシアの旗)」は、このデザインとよく似た画像をアルバム「鋼の鷲」のジャケットイラストに使っている。鋼の鷲」に収録された曲のいくつかは、2015年にロシア連邦司法省によって過激主義的な楽曲と判断されている。
テレグラムの極右販売業者がよく宣伝するオンラインストアに、「シュトルム・ストア」(大体は略称で「SS」と呼ばれる。これもネオナチ用語への目くばせだろう)がある。このストアも、白人至上主義的な商品をインスタグラムで露骨に宣伝している。シュトルム・ストアのインスタグラムのプロフィール欄には、テレグラム・チャンネルへのリンクが掲載されている。テレグラム・チャンネルの登録者は1000人ほどだ。
ベリングキャットはこれらの件について、インスタグラム社に話を聞いた。インスタグラム社の親会社メタの広報担当者は、ベリングキャットが指摘したアカウントの一部を凍結したと語った。インスタグラムでは、様々な技術の使用や対テロリズム専門家350人によって、変化していく潮流に目を配るよう努めているという。
「当社はフェイスブックおよびインスタグラムから、組織的なヘイト犯罪や暴力行為に関係する個人や団体を排除しています。鉤十字やゾンネンラートといったシンボルを含め、彼らを称賛、支持、代弁するコンテンツは削除し、違反を繰り返したアカウントは完全に停止します。ですがそうは言っても、常に対抗関係が生まれる場であるため、利用者は類似のコンテンツをシェアする別のやり方を探すだろうともわかっています」
本記事で取り上げたヨーロピアン・ブラザーフッドとロスウェアのアカウントは、確かに本記事の公開時点では停止されているようだった。ただ、シュトルム・ストアについては、当初のアカウントはここ数か月のうちに停止されたようだが、ほぼ同じ名前のアカウントが代わりに登場したようだ――白人至上主義やネオナチ商品を販売する、前と同じテレグラム・チャンネルへのリンクを掲載している。ロスウェアの衣類らしき商品を宣伝する別のアカウントも、まだインスタグラムにある。このアカウントのページを見ると、鉤十字やネオナチが使う他のシンボルを印刷したTシャツの画像が投稿されている。シュッツェンブランドのアカウントもまだ残っているが、テレグラム・チャンネルへのリンクはプロフィール欄から消えている。
ヘイトに満ちた衣服はどう作られるか
こうした商品を販売する極右団体は、自分たちで商品を製造しているわけではない。
加工前の衣類やその他のファッショングッズは、自社製品がどのように使われるか、おそらくは気づいていない卸売業者から購入されているのが普通だ。
本記事で言及したデザインは、ノーブランドの衣類にDIY方式でプリントされ、その後販売されるらしい。
たとえば、「マーテルアンテテ」というオンラインストアは、「キープ・イット・ホワイト(白く保て)」や「ウーバーメンシュ」といったあからさまに差別主義的な名前のブランドのネオナチ衣類を販売している。商品のひとつに、「デス・ルーン」(これもネオナチが勝手に使用している異教的シンボル)がプリントされたスウェットシャツがある。
このスウェットシャツの商品説明欄を見ると、製品仕様書へのリンクがあるのだが、リンク先はrusselleurope.comというウェブサイトだ。
ラッセル社は、フルーツ・オブ・ザ・ルーム社の子会社であり、B2B(企業間取引)を行う大手衣類製造業者だ。
まず注意しなくてはいけないのは、ラッセル社もフルーツ・オブ・ザ・ルーム社も、自社製品がこういうふうに使われていることを知らないだろう、ということだ。製品はバリューチェーンの各段階で様々な顧客および卸売業者に売られる。購入した業者は、極右ブランドやその代理人に対して、相手の正体を知っていても知っていなくても、売り手になりうる。
フルーツ・オブ・ザ・ルーム社の広報担当者は、ベリングキャットに対し、人々に敬意を持つことは同社の核にある価値観だと語った。「当社の価値観に反する、団体もしくは個人によるヘイト・スピーチおよびいかなる行動も、当社は許容していません。当社の製品が卸売流通において販売されているため、製品が最終的にどこに販売されたのか、特定することも管理することもできません」
「しかし、当社はこの状況を丹念に調査し、将来における当社との関連付けや当社製品の使用を阻止するため、適切な対応をとります」
ベリングキャットはまた、B&Cコレクション社の衣類が、同じくマーテルアンテテで販売されていることに気づいた。以下の画像は、ヴェグヴィシル(ルーン・コンパス)の画像をあしらったTシャツだ。北欧神話に登場するヴェグヴィシルも、極右団体や極右主義者が使っているシンボルである。
問い合わせに対し、B&Cコレクション社はこう回答した。「もちろん、当社は行動指針に明記しているとおり、過激主義的な主張も、ジェンダー、出自、信仰に基づいたいかなる差別も支持しません」
「残念なことに、当社はB2B2B2C(訳注:多数の企業間取引が行われた後、一般消費者に商品が届くビジネスモデル)の市場にいるため、エンドユーザーに直接販売はしていません。当社の衣類は大量に箱単位で国際的なヨーロッパの大手マルチ・ブランド卸売業者に販売されます。卸売業者から代理店や再販業者に売られ、さらに印刷業者に売られ、さらに様々な会社に売られます。残念ながら、自社の衣類がどこに行き着くかをコントロールする方法は当社にはありません。そうした主張に共感していると思われるなんて、あってはならないことですが、サプライチェーンの下流をコントロールすることは不可能であることをご理解いただけると幸いです」
ウェブサイトを調べてみると
多くの極右団体が、大手のプロセシングおよびウェブホスティング・サービスのプラットフォームを使用していることも、ベリングキャットの調査により判明した。
極右オンラインストアの運営に使われている技術サービスの提供元が、はっきりとウェブサイト内に明記されていたケースもある。
例えば、ロシア、セルビアやドイツの複数の過激派ウェブサイトには、「SmkStyleで作成」と、ウェブサイト作成サービスの名前が書いてあった。
このような使用を認識しているのかについてメールで問い合わせたが、SmkStyleからの返信はない。SmkStyleのウェブサイトは閉鎖されたようで、現在はアクセスできなくなっている。
大体の場合、極右ウェブサイトは、使用したサービスについてこんなにはっきりとは書かない。しかし、簡単に使えるオンライン・ツールの数々が、そうした情報を突き止める助けになる。
前述した極右オンラインストア2yt4uは、どうやってウェブサイトを作成し、デザインしたかについての情報を載せていない。だがコンテンツ管理システム(CMS)を調べられるツール「WhatCMS」(whatcms.org)を使うと(もしくはウェブサイトの要素を「調査」してもいい)、2yt4uがデザインとウェブホスティングに関してWixという名前のソフトウェアを使用しているようだとわかる。
Wixはイスラエルの有名なソフトウェア企業で、簡単に使えるウェブサイト作成ツールとクラウド・ホスティング・サービスを提供している。同社のウェブサイトによると、同社のサービスは「中傷、名誉棄損、猥褻、嫌がらせ、脅迫、扇動、罵倒、人種差別、侮辱」と見なされるコンテンツへの使用を意図していない。
2yt4uが発信するメッセージと、販売するTシャツ――たとえば、悪名高いナチス親衛隊(SS)のシンボルやスローガン、または輪縄と松明たいまつを持ったKKKのイラストをプリントしたもの――は、Wixの方針に反するように思われる。
ベリングキャットが送ったメールへの返信で、Wixは、同社のプラットフォームを用いたあらゆる種類の有害なコンテンツに反対すること、「有害で不正なウェブサイトについての報告や通知には、すべて極めて真剣に対応します」と述べた。
「Wixの利用者によって公開されたコンテンツについて苦情を受けると、当社のポリシー・チームが当該ウェブサイトのコンテンツを独自に検討し判断します。当社はすべての意見を精査するため積極的に対応し、意見を受け取ったらすぐに必要な行動を起こしますが、Wixで作成されたウェブサイトの外部にあるものについては判断できません。当社はプラットフォームにおける安全性を高めるための対策を常に追加しつづけており、司法当局からウェブサイトを閉鎖するようにという要請があった場合は従います」
本記事の公開時点では、下記のようなTシャツを販売している2yt4uのウェブサイトはインターネットでの活動を続けている。
大手のドメイン登録業者やホスティング・プロバイダにも、サービス利用者に向けた企業ポリシーがある。観測した範囲では、本記事で言及されている様々な極右団体のメッセージやファッション商品を許容するポリシーは少ないようだ。
ウェブサイトのドメイン名や詳細について充実したデータベースを提供するwho.isのようなサイトを使うと、ヨーロピアン・ブラザーフッドのドメイン名は大手ドメイン登録業者GoDaddyによって登録されているとわかる。GoDaddyは以前にネオナチ団体の利用を禁止することで企業としての姿勢を表明したことがある。
同社の姿勢にかかわらず、ヨーロピアン・ブラザーフッドのオンラインストアでは、反LGBT、反移民、そしてナチズムをほのめかすデザインのTシャツが販売されている。
たとえば、上の画像の右側にあるTシャツには、青年のイラストと、「闘う時だ――抵抗活動に加わろう」というメッセージがプリントされている。この青年のイラストはヒトラーユーゲントのポストカード(こちらの画像)からとったもので、元のポストカードには「Auch Du」、つまり「君も」という呼びかけが書いてある。
GoDaddyの使用規約は、「テロ行為や、人間、動物、財産に対する暴力を喧伝、促進、またはそれらに関係する」ものすべてを禁止している。
ベリングキャットはGoDaddyに電話とメールで複数回にわたり連絡を試みたが、本記事の公開時点では反応はなかった。
ヘイトの代償を払わせる
ベリングキャットが分析した極右オンラインストアの数店では、大手決済システム業者が提供するサービスも利用されているようだった。
スウェーデンの「ミドガルド・ショップ」は、ヨーロピアン・ブラザーフッドの商品も、ネオナチ・イデオロギーや白人至上主義を称賛するような独自商品も販売している。このオンラインストアでは、Payop、Paysera、Nets Easyといった決済システムを通じた支払いが可能だと書いてある。
決済システム業者Payopのウェブサイトには、「暴力や憎悪、人種差別を扇動する、また、猥褻と見なされる物品」を販売する際に同社のサービスを使用することを禁じると明記されている。
同様に、Payseraのウェブサイトには「憎悪と暴力」を促進する活動を行った利用者に対して罰金を科すことがあると書かれている。Nets Easyも公式ウェブサイトに、平等や倫理、多様性についての多数のポリシーを明記している。
メールによる回答で、Payopは同社が「そのような内容の商品の販売を禁止する」ことを明確に規定していると言い、ベリングキャットが「このウェブサイトを指摘した」ことに感謝する、と述べた。
「Payopはこのような産業を絶対に許容することはなく、不正な使用を防ぐために積極的なモニタリングを行っています。このウェブサイトが当社のインフラにどのようにつながっているのか内部で調査を行います」
さらにPayopは、現時点ではこのウェブサイトにおける取引は同社のソフトウェアでは行われていないと付け加え、ミドガルド・ショップの支払いページには他の決済システムも列挙されていると指摘した。
Payseraは、ベリングキャットの連絡に感謝の意を示し、当該の販売業者は現在「当座預金口座」を持っているだけであり、オンライン送金手続きを自動的に進めることはできないと回答した。Payseraが言うには、世界中で膨大な点数の商品を扱う1万3000人以上のインターネット販売業者が同社の決済システムを使用しているものの、「この事業者を調査し、しかるべき判断を行います」とのことだった。
Nets Easyの広報担当者はこう回答した。「この件に当社の注意を促してくださり、ありがとうございます。すべての法的規制に準拠すること、法に則った顧客確認(ノウ・ユア・カスタマー)の義務に完全に従うこと、そして当社の高い倫理基準を維持することは、当社にとって最優先課題です」
広報担当者によると、ベリングキャットがコメントを求めてNets Easyに連絡をとった後、社内調査が行われ、ミドガルド・ショップが使用していたアカウントは停止されたという。
ベリングキャットが発見した別のケースでは、決済システムに注目することによって、見たところほとんど無害な衣類を販売するオンラインストアが、どういうわけか別の極右オンラインストアの販売に関係していることが判明した。
ドイツの極右団体「アンスガル・アーリアン」のウェブサイトで商品を注文しようとすると、BungeeCloudが提供する決済システムにつながる。興味深いのは、この取引が、アンスガル・アーリアンとではなく、「アンタゴニスト・ショップ」(antagonist.shop.de)という名の団体と進められるというメッセージがスクリーンに表示されたことだ。
ベリングキャットは注文を完了しなかった。
だが、そうしたメッセージが表示されるということは、アンスガル・アーリアンから商品を購入すると、アンタゴニスト・ショップが支払い手続きに関わるということだ。
アンタゴニスト・ショップで販売されている衣類には不快な画像がついたものはないし、ウェブサイト内でアンスガル・アーリアンへの言及もない。
ベリングキャットはアンタゴニストに質問のメールを送った。返信は「FU」(ファック・ユー)の一言だった。
ベリングキャットはBungeecloudにも本記事の公開前にメールおよびディスコードで連絡したが、返答はなかった。
ベリングキャットが調査した他の団体には、支払いを決済代行会社からより直接的に受け取っているものもあった。
音楽と衣類を販売するハンガリーの白人至上主義オンラインストア「ノーディック・サン・レコーズ」では、オランダの決済代行会社MolliePaymentsを通した支払いが可能だ。
ノーディック・サン・レコーズの支払いページのソースコードを調べるとわかる。
支払い手続きのページまで注文を進めていってもわかる。
MolliePaymentsは、公式ウェブサイトで「社会的に許容できない」と見なされる商品および同社の評判を害するような商品、政治的暴力を促進するような商品の販売は許可しないと明記している。
ノーディック・サン・レコーズについて質問すると、MolliePaymentsはこう返答した。「当社のポリシーは、政治的暴力を促進する商品を販売する事業者に対し、当社の決済サービスを使うことを禁止しています。当社はノーディック・サン・レコーズに対して内部調査を行い、この事業者が当社の使用条件に違反しているという結論に達しました。当社は提供していたサービスを即座に中止しました」
前に掲載した画像からわかるように、ノーディック・サン・レコーズでは仮想通貨プラットフォームである決済代行会社CoinPaymentsを経由した支払いもできる。
仮想通貨は匿名性が高いことが特徴であり、そのためネオナチや極右の過激派によく使われていると言われる。
だがそれは仮想通貨プラットフォームに、極右団体や差別主義団体によるサービス利用を禁じるポリシーがないということを意味するわけではない。
CoinPaymentsは、公式ウェブサイトに「憎悪、人種的不寛容、他者に対する暴力行為を、扇動、脅迫、援助、促進、奨励する」行為に同社のサービスを使用することを禁止する、と明記している。
CoinPaymentsにベリングキャットが連絡したところ、ノーディック・サン・レコーズの件に注意を喚起してくれたことに感謝するという返答があった。「このアカウントは、禁止する商品・サービスの種類が明確に記された当社の使用規定に違反していることがわかりました。当社はこのアカウントを使用停止したので、事業者はサイト上で仮想通貨による支払いにCoinPaymentsを使用することが今後できなくなります」
ヘイトを踏みつける
ベリングキャットが今回調査したのは、極右のテレグラム・チャンネルや投稿で宣伝または紹介されている極右販売業者の一部だけだ。さらに調査を続ければ、おそらくもっと多数の販売業者が他の決済システムや衣類製造業者やウェブのインフラストラクチャーを利用していると判明するだろう。
この数ヶ月のあいだ、極右ストアのいくつかは、ロシアの「ボリシェヴィキ」に対する闘いを称賛する、ヒトラーのイラストのついた商品を売りはじめた。
ただ、注意すべき点は、大半のストアはどちらかというと趣味で運営されているように見えることだ。在庫は少なく、商品数も限られていて、ウェブサイトはみすぼらしく、時代遅れだ。
ヨーロピアン・ブラザーフッドやミドガルド・ショップのようなオンラインストアは、もっと堅固な基盤を持つプロが運営しているように思われる。
しかしこうしたストアは、極右団体の資金源になりうるだけではない。多様な地域・国家の類似の団体の商品やミーム、ブランドやイデオロギーを広める助けになっているのだ。
製造業や、ウェブ技術、ソーシャルメディア、決済システムといったサービスを提供する大手企業の多くが、知らず知らずのうちにこうした商売を成り立たせているという事実は、企業のそれぞれが向き合わなくてはならない問いを投げかけている。
ベリングキャットの連絡を受けて数社の企業は対応したが、まだ発見されていないケースは多いだろう。
取材・執筆:フォエク・ポストマ
ベリングキャットのリサーチャー、トレイナー。紛争分析・解決分野での経験があり、軍事、環境、LGBT+に関心を持つ。
Twitter: @foekepostma
Bellingcat 2022年5月24日
Fascist Fashion: How Mainstream Businesses Enable the Sale of Far-Right Merchandise
翻訳:谷川真弓