汚染水が「一般排水」に流されていた…極秘資料が語るずさん管理の実態とは【スクープ連載『デュポン・ファイル』第6回】
国際機関から発がん性を指摘されている有機フッ素化合物「PFOA(ピーフォア)」。三井・デュポンフロロケミカルの清水工場(静岡市)で半世紀以上にわたって使われ、工場の内外を汚染していた。その工場内の極秘データが収められた「デュポン・ファイル」を入手。5万ファイルに及ぶ膨大な資料を紐解きながら、「地下水汚染」「排水汚染」「大気汚染」「体内汚染(従業員)」の実態を4週にわたって描く調査報道シリーズの連載第6回。
前回は清水工場でのPFAS汚染水の管理基準が作成された経緯を追ったが、今回は排水がどのように管理されていたのかに迫る。極秘資料には、元従業員の「事実上の垂れ流し」という証言を裏付ける、驚くほどずさんな管理の実態が克明に記録されていた。
フリーランス 諸永裕司
未処理の汚染水があふれて一般の排水溝に流れ込むトラブルが多発していた
C-8ことPFOAは、製造プラントで使われた水に溶け込んだまま専用施設に送られたあと、汚染を取り除いてから工場の外へ流されることになっていた。
だが、実際は違っていた――。
「デュポン・ファイル」には、水質管理のずさんさを裏付ける発言がいくつも記録されている。
「Tech Review 質疑応答」(2006年)という文書には、PFOAを含んだ汚染水を処理設備に流す排水溝でオーバーフローが起き、そのまま一般の排水溝に流れ込むことがあると指摘されていた。対応について見解を求められた担当者は次のように答えている。
<確かにそうしたトラブルは多々ある。大雨の時など、雨水の流入も十分考えられる。
理想的には排水側溝ではなく配管にすべきと考えるがこの点については今後協議する必要がある>
なぜこんなことが起きてしまうのか。そもそもの施設の設計に問題があった、という指摘が続く。
<排水溢れの根本原因として排水処理設備の能力不足が挙げられる>
<こうした排水設備計では安全シロを大きくとるべきだったが、能力的にギリギリの設計にしたことが問題>
人為的なミスも重なっていたようだ。2006年6月に送られた「場外排水・場内井戸水調査結果」というタイトルのメールがある。
PFOAを含んだ排水を適正に処理できていなかったことは、元幹部も認めている。副工場長や理事を務めたというOBはこう語った。
「工業排水には気を使っていたが、一般排水(として放流する分について)はあまり意識していませんでした。詳しいことはよく覚えていませんが、デュポンから言われた通りにやっていました」
汚染水は「一般排水」として流されていた
排水から高濃度のPFOAが検出されていることについては、対処すべき案件として検討が続いていた。2007年の「ポリマー排水・C-8回収特記事項」という資料には、次のような記述がある。
<今年から(中略)PFOAが含まれている可能性がある排水は一般排水に流さないようにした>
ということは、それまでは一般排水へ流していた、と打ち明けているに等しい。設備などハード面の改善が進まないため、黙認されていたのだろうか。
その後、一般排水へは流さなくなったのか。