災害発生時のメディアの発信は「じゃない」方向に行ってしまっていた!?報道が果たすべき究極の目的と「リスク・コミュニケーション」とは【メディフェスリポート①】
「大災害が発生した時、報道は自分たちが何をすべきか分かっていない!」そんな刺激的な提言がありましたよ。
セッションが行われたのが「メディフェス」。市民が中心となって運営したり、運営に参加したりするメディアが一堂に集まって交流するイベントです。実はこうした市民メディア、全国にたくさんあるのです。
11月23日に立命館大学で開かれたこのイベントの内容については、すでに立命館大学新聞社が紹介しています。ただ、こちらの紹介では触れられなかった、メディア関係者には重要なセッションがありましたので、今回、改めて内容をリポートします。
セッションのお題は、「地域メディアだからこそできる災害との向き合い方:災害報道から『リスク・コミュニケーション』へ」です。
スローニュース 熊田安伸
正解がわからない現代の災害だからこそ、メディアがいますぐ取り組むべきこと
「現代の災害報道は、誰にも正解がわからない問題を取材し、整理し、伝達しなければならないという困難な状況からスタートしている」
そんな指摘をしたのが、このセッションのモデレーターに立った、社会構想大学院大学の橋本純次准教授です。これには同感ですね。東日本大震災にしても、最近の台風にしても、そして新型コロナウイルスにしても、「不確実性」の高いもので、その災害の規模や実像、そして対応策をすぐさま提示するのは困難な災害が続いています。
だからこそ『リスク・コミュニケーション』が重要だと訴えます。つまり、住民も行政もメディア関係者も、リスクに関係する人たちが情報を共有し、共に考えることによって、解決を見つけるということです。いわば、ステークホルダーが「リスクを民主的に管理する」考え方で、究極の目的は、信頼関係の構築によってレリジエンスを高めることです。そのためには、「当事者の参加」が重要ですが、これまでは「当事者がないがしろにされていた」といいます。
その上で、従来型の災害報道には、以下のような点で限界があると指摘します。
視聴者ニーズの把握の困難
権力監視と「共考」の相性の悪さ
科学的根拠の検証能力/人員の不足による専門家依存
一方で、同報性の高いメディアであるテレビだからこそ可能な、リスク・コミュニケーションへの貢献の仕方がありえるとして、「テレビ局は何が分かっていて(できて)何が分かっていないか(できないか)」を自ら開示することが信頼を獲得し、適切なコミュニケーションを実装するには不可欠だと強調しました。
だからこそ、メディアは「なぜ自分たちの情報が信頼できるかを自らの言葉で示す」のが重要で、腰を据えた関係構築に取り組むことこそがいますぐ必要。それは規模の大きなメディアであるほど不足していたことだと、重ねて指摘しました。
リスク・コミュニケーションの場を作るためにデザインと実践を
そこでリスク・コミュニケーションの主体として期待できるのが、地域の実情を踏まえた情報発信をしてきた、コミュニティFMのような地域メディアだといいます。
東北大学の坂田邦子准教授は、FMいわきの実践例から、地域メディアにおけるリスク・コミュニケーションの取り組みを紹介しました。
「何が正しくて何が偏っているのか、自分では判断が難しい。その状態の時にこそ、誰かと、専門家と行政と話し合わないと、正しい道も選べない。いろいろな立場の方と突き合わせながら実践的に考えましょうと」
この表の赤枠になっているところが、市民や行政、メディア、専門家などが一緒にできるところだといいます。問題解決にむけてリスク・コミュニケーションの場を創出するために、デザインと実践が必要だといいます。
そこで行ったのが、FMいわきでの番組制作とワークショップの開催でした。番組は2023年10月から24年3月まで26回放送し、その間に参加したパーソナリティ自身の考え方さえ変わっていったといいます。ワークショップには5つのステークホルダーが参加し、例えばいわき市の水道局の人など行政側は、最初は厳しい意見にさらされるかと思って緊張して参加したものの、それぞれの組織で何が困難だったかを率直に出し合うことで、今後の災害に備えてどう展開していけるかを話し合うことができたといいます。
そうはいってもリスク・コミュニケーションは簡単ではなく、立場や興味、関心が違う人と話すのは難しい。坂田淳教授は、地域のメディアが自らの役割を認識することが大事で、ステークホルダー間の信頼関係の構築、関係性の強化のハブになっていくことを考えてもらいたいと述べていました。
被災者が欲しいのは、復旧した水道の情報ではなくいつ復旧するかという情報。普段から行政とつながっておけば
FMいわきは、東京電力・福島第一原発の事故のあとで、他のメディアが現場からいなくなった中でも伝え続けたことで知られています。そういう経緯があって、リスナーや他のステークホルダーとの間に入ってある種のハブの役割を果たしました。
いわき市民コミュニティ放送の安部正明シニアディレクターは、あくまで「特別なことをやっているわけではない」と話します。「普段はその地域に特化しながら、市民の皆さんに参加してもらえる番組づくりや、イベントに積極的に出て行って信頼関係を気づいている。小さいメディアだからこそ入り込み方がすぐ深化する特徴もあり、災害の時には互いに助けてもらえる。 情報量が多いとか変化のスピードが速いのは大変だったが、やっていることは変わらないし、市民のスタッフに助けてもらって報道できた」と明かしました。
実は震災の際に市民から寄せられた声の9割は、「怒りの電話」だったといいます。