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スクープ!墜落オスプレイが緊急着陸を目指した屋久島空港に民間旅客機がいた

フロントラインプレス・大矢英代ほか

先月29日、鹿児島県の屋久島沖で米空軍輸送機CV-22オスプレイが墜落した事故はその後も大きな波紋を引き起こしている。6日には米軍が機体そのものに何らかの「欠陥( failure)」があった可能性があるとして、米軍は世界に配備しているオスプレイ全機の飛行を停止したと発表した。

この事故に関連し、新たな事実が調査報道グループ・フロントラインプレスの取材でわかった。事故を起こしたオスプレイが屋久島空港への緊急着陸を試みていたのと同じ時間に、同空港の滑走路付近には民間の旅客機がいたのだ。緊迫の数分間に何が起きていたのか。公開情報と独自取材で検証した。


オスプレイの緊急着陸要請と同じタイミングで

旅客機は、日本エアコミューターの屋久島発・伊丹(大阪)空港行きJL2450便。事故当日は、出発予定時刻(定刻)の午後2時40分より5分早い午後2時35分に出発した。日本エアコミューターを管轄する日本航空の担当者によれば、「出発」とは「機体のドアを閉めて飛行機が動き出す時間」であり、タイヤが滑走路から離れた離陸時刻ではない。

NHKの報道などによると、オスプレイから屋久島空港への緊急着陸要請が入ったのは、JL2450便が駐機していた場所から動き出したのと同じ午後2時35分ごろだ。つまり、JL2450便が離陸しようとしていた時、オスプレイは同じ屋久島空港に向かっていたことになる。 

フライト追跡機能ができるアメリカの航空情報サイト「フライトアウェア」でJL2450便の運行情報を調べてみると、機体は動き始めてから4分間地上を走行し、午後2時39分に離陸したとある。

Flight Awareのサイトより

緊急着陸なら大惨事のおそれ、着陸困難だった可能性も

屋久島空港は小規模な空港で、滑走路は延長1,500メートル、幅45メートルの1本しかない。滑走路とエプロン(乗員乗客の乗降や機体の整備などを行うための駐機スペース)は、長さ75メートルの短い誘導路で結ばれている。

屋久島空港 @Google

報道によると、オスプレイが屋久島空港への着陸を試みていたのは、緊急着陸要請が入った午後2時35分から、自衛隊のレーダーから消失した午後2時40分頃までの約5分間とされる。このうち、午後2時35分からの4分間、JL2450便は誘導路を通過し、滑走路上を走行していたとみられる。

もしオスプレイが滑走路への緊急着陸を試みていたとしても、すでに滑走路付近には旅客機がいるため、着陸は困難だった可能性がある。

屋久島空港管理事務所によると、同空港には、滑走路上で航空機が方向転換(Uターン)を行うために必要なターニングパッド、ヘリコプターのためのヘリパッドも設置されていない。滑走路上には退避スペースがなく、オスプレイが緊急着陸を行っていれば、甚大な被害が出ていた恐れもある。同事務所の担当者も「滑走路は1機ずつしか使えない。滑走路に機体があったら(上空の航空機は)着陸できない」と言う。

空港事務所「答えないように言われている」

屋久島空港管理事務所は取材に対して、「(JL2450便に関しては)事故の前後の便に当たるので、答えないように言われている。防衛省に問い合わせてほしい」と明言を避けた。

一方、鹿児島空港事務所運用室によると、屋久島空港には航空管制官も航空機に情報提供を行う航空管制運航情報官もいない。鹿児島県の職員がいるのみだ。航空管制運航情報官は鹿児島空港からリモートで、屋久島空港の周囲10キロを飛行する航空機に向かって滑走路には現在航空機がいるなどといった空港の状況を情報提供する。それをもとに上空にいる航空機のパイロットが着陸を判断する。航空管制運航情報官には着陸許可を出す権限はない。

同運用室によれば、事故を起こしたオスプレイは、JL2450便が飛び立ったあとに着陸することになっていたと説明している。ただ、JL2450便の離陸を待っている間にオスプレイが墜落したかどうかについては「わからない」としている。

空港の県職員への緊急連絡は「民間旅客機の離陸1分前」

国土交通省航空局総務課危機管理室によると、鹿児島空港にいる航空管制運航情報官にオスプレイのパイロットから屋久島に着陸したい旨の連絡が入ったのは、午後2時30分ごろだという。その両者はしばらく交信し、事故機からは緊急事態であるという応答があった。情報官から屋久島空港の県職員に緊急連絡が入ったのは、午後2時38分ごろだったという。「フライトアウェア」によれば、これはJL2450便離陸の1分前だ。

JL2450便の同型機(日本エアコミューターのサイトより) 

この危機管理室担当者は、取材に対し、午後2時38分まで屋久島空港にいる職員はオスプレイが緊急着陸をしたがっていることを知らなかったと述べている。

その上で、オスプレイと鹿児島空港の航空管制運航情報官の交信は、民間機のパイロットにも聞こえているとしている。「実際に聞こえていたどうかは、通信記録の内容の話になるので言えない」としつつも、「オスプレイのパイロットには滑走路に民間機がいることは見えていたでしょう」と語った。他方、オスプレイのパイロットには、屋久島空港の滑走路には民間機がいることを伝えていたと取材に対して明言した。

防衛省に対しては、オスプレイの緊急着陸要請時に滑走路付近に旅客機がいたことを把握しているかどうかを質問したが、12月7日正午現在、回答はない。

オスプレイのトラブル、過去に54件

アメリカのNPO「飛行安全財団(Flight Safety Foundation)」が運営するデータベース「航空安全ネットワーク(Aviation Safety Network)」には、過去のオスプレイの機体トラブルに関するデータが一覧で掲載されている。1991年以降、墜落や緊急着陸など54件のトラブルが起きていると明記されている。

オスプレイ(Image by Military_Material from Pixabay)

今回の屋久島沖での墜落事故を受けて新たに追加されたページには、米国東部時間の12月4日午前7時39分、新たに以下の説明が追加された。

「事故機のオスプレイが(屋久島空港の)滑走路に進入していたが、旅客機がまさに離陸するところであり、オスプレイの迅速な着陸が妨げられる可能性があった」

JL2450便が滑走路から飛び立ったのとほぼ同じ時間に、オスプレイは空自のレーダーから姿が消え、その後墜落が確認された。JL2450便は予定時刻より10分早い午後4時5分に伊丹空港に到着した。

※時刻はいずれも「およそ」

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