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「広島県警の不正の認定がおかしい」「捜査費が明らかにされてない」元警察官が実名で訴えたことと無念の思い

広島県警の不正経理問題を在職中にカラ出張を公益通報(内部告発)し、これまでは匿名で取材に応じていた元巡査部長の粟根康智さん(44)が13日、実名に切り替えて記者会見に臨んだ。

この問題で県警は警察官3人を詐欺と虚偽公文書作成・同行使の容疑で書類送検したが、粟根さんは「本当に適正に捜査されたのでしょうか」と県警の姿勢を批判。送検容疑と自らの体験に大きな食い違いがあるとして、さらに詳しく捜査・調査するよう求めた。

粟根さんは記者会見に先立って、代理人の清水勉弁護士と共に県警本部に足を運び、監察官らと面談。その後の記者会見では、家族と相談して決めたことなのでと前置きし、過去2回の会見とは違い、実名・顔出しでの報道を了承した。


県警の認定、おかしいのはここだ

この日の会見で粟根さんが強調したのは、以下の点だ。

① 送検容疑など県警が認定した事実は自身の経験と大きく食い違う

② 監察官室は自分の公益通報より先に届いた告発文書の内容をカラ出張の中心人物だった警備課長に漏洩し、その結果、証拠隠滅や口封じが行われた

③ 不正の全容は明らかにされていないし、とくに捜査協力者に渡ったはずの「捜査費」の行方が確認できていない

こうした点を中心に粟根さんと清水弁護士は、真相を埋もれさせてはいけない、事実を徹底解明してほしいと強調した。この会見やこれまでの取材で明らかになったポイントをまとめると、次の表の通りになる。中でもポイントになりそうなのは「捜査費」に関するものだ。

ポイントは明らかにされていない「捜査費」

会見で清水弁護士は、これまでのマスコミ報道で「全く出てこない大きな問題」があるとして、捜査協力費(捜査費=国費)に言及し、次のように語った。

「警備公安活動では、特定の捜査協力者に定期的、不定期的に面談して情報を提供してもらい、その見返りに謝礼、 捜査協力費が渡されています。1000円単位ではありません。万以上の単位になります。で、捜査協力費は会計処理される。(警察署長らの)承認も得て会計からお金を受け取って、次の日に相手に渡して、預かったお金をいくら渡してきましたと(報告書に記し)懐に入っていないっていう証明になる」

警察関係者によると、一般的には、捜査費の額は渡す相手や頻度によって異なるものの、少なくて1回数万円、多い場合は十数万円から数十万円にもなるという。

13日の会見に臨んだ清水勉弁護士(左)と粟根康智元巡査部長(撮影:スローニュース)

詐欺容疑なのになぜ2課ではなく公安が捜査を?

ところで、書類送検に至った今回の事件捜査は警備部公安課が担った。詐欺容疑などは普通、刑事部の刑事2課が担当する。これについて、粟根さんは捜査費の絡みがあったのだろうと述べ、次のように説明した。

「刑事2課が本来やるべきだと思います。今年(5月には広島でG7)サミットがありました。正直なところ、事件体制は取れるはずはない。ものすごく忙しかったと思います。 そんな中で、わざわざ、なぜ公安課か? それはひとえに、刑事2課に行くと、多分、徹底的に調べていたと思います。これ、国費の捜査費が動いている事案なので、全てが(部外者に)聴かれてしまうと、非常にまずい というのがあって、そこを突いてほしくなかったんだろうと私は考えています」

清水弁護士によると、捜査費は出金手続きだけでなく、捜査協力者に会っていくらを渡したという報告書とセットになっており、不正な着服がない重要な証拠になる。カラ出張した時の報告書にも捜査協力者に捜査費を渡したと書いてあるはずという。

「お金(捜査費)を受け取るときに副署長、署長の決裁をいただいて、お金を受け取ります。その後に、ちゃんと使いましたっていう書類も全部作ります。当然、(捜査費を)渡したことになっておる。ですが、カラ出張だったら捜査費はどこに行ったんでしょう? 後日渡したかもしれません。ただし、後日渡したと言っても(作成済みの)書類が嘘であることは間違いない。こういったものは、やっぱり絶対あってはならない」

警備課によるカラ出張が行われていた福山北警察署(撮影:スローニュース)

「監察官室が証拠破棄と口封じのチャンスを作ってしまった」

粟根さんらの指摘は、監察官室の対応にも及んだ。そもそも監察官が最初に一連のカラ出張を察知したのは、2021年2月頃に届いた匿名の告発投書だった。当時はリアルタイムで不正経理が進行していた時期。調査・捜査の基本に則って監察官が経理書類などの証拠を保全し、速やかに調査・捜査していれば、問題は早期に解決していたと思われる。

ところが、監察官は投書の内容をそのまま課長に伝えてしまった。公益通報の取り扱いに反し、証拠保全を最優先するという捜査の常道にも反する行為だ。

粟根さんはこう言った。

「監察がそれ(匿名告発の内容)を課長に言ってしまったから、運転日誌を破棄した。破棄させるチャンスを作ってしまった。これ自体、公文書です。そして、口封じをするチャンスを作ってしまった。(自浄能力を発揮して)全てをきちっとやるんだったら、その時に証拠品はまずちゃんと押さえて、言い訳ができないような状況を作るのが監察の仕事だと思います。それを一切 せず、その後の1年間、私は本当に監察から何も聞かれなかった」

広島県警察本部(撮影:スローニュース)

「(課員がカラ出張を命令されていた当時は)本当に苦しんでる人がいっぱいいました。もう監察に言った方が楽になれるんじゃないか、しかし私らの上司はそれ言っても“てんつば”(天に唾する)になるけん、もう絶対に言わん方がいいよ、って……」

無念の告白「自浄機能が動くようにしてほしい」

「(相次ぐ警察不祥事を受けて1999年〜2000年に設置された)警察刷新会議でも言われた自浄能力が全く機能せずに、(告発の中身が)当の本人に抜けてしまう。こんなことがあったら、私の後輩、いま現職におる人たち、その人たちが何に頼ればいいんだろうかっていうのを、私自身、ものすごく思っています」

粟根康智元巡査部長(撮影:スローニュース)

「自分がやったことに対する責任は自分が取ります。ですが、この自浄機能がしっかり動くようにしてほしい。私、ずっと警察にいたかったんです。でも、今回、これ(公益通報や会見)をすることによって、適切に自浄機能が動くようになってほしい。私は、無実だとか、そういったことを言うつもりはありません。ただ、これは正確に伝えていただきたい、そういった思いであります」

いったい、何のために公益通報したのか。いまなぜ、カメラの前に素顔を出し、実名での記者会見に臨んだのか。2時間近くにも及んだ会見は、自浄作用が働かなかった無念さが滲み出る内容だった。

新聞やテレビの報道からは見えてこない真摯な発言の数々。その記者会見のノーカット版はスローニュースでお伝えする。また、会見で配布された資料も公開する。

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