「34枚の証拠の画像が消された痕跡を見つけた」警察署長を東京地検に告訴した弁護士が語った疑惑の中身とは
取材・執筆 フロントラインプレス
警察が証拠のSDカードに手を加えていたのではないか。そんな疑惑が、ついに東京地検への告訴という事態に至った。
調査報道グループ「フロントラインプレス」がスローニュース上で報じてきた宮崎県警の証拠改ざん疑惑。殺人罪などに問われている久常芳治被告(49)は6日、被告に有利な証拠写真の画像データが警察によって改ざんされ、隠されたなどとして、当時の宮崎北警察署長らを証拠隠滅罪で東京地検に告訴した。
被告の代理人を務める黒原智宏、西田理英両弁護士は告訴状の提出後、東京で記者会見し、証拠の画像データから少なくとも34枚が削除されていると指摘。「原本ではないデータが原本として開示されている。被告に有利な証拠が意図的に改ざんされた」と述べ、刑事裁判の信頼性を根底から揺るがす行為だと強調した。
被告は「正当防衛」と主張、焦点はナタに残っているはずの指紋
事件が起きたのは2020年11月22日の深夜。
宮崎市のJR佐土原駅前の路上で、自営業の男性(47)=当時=が腹部を刺されて死亡し、久常被告は殺人罪と銃刀法違反で宮崎地裁に起訴された。
これに対し、被告・弁護側は、「現場では最初に被害者男性がナタで久常被告を襲ってきた。被告はとっさにズボンのポケットに入れていた包丁を取り出して差し向け、それが男性の腹部に突き刺さった。本件は正当防衛であり、被告は無罪」と主張。
現在は裁判員裁判へ向けて争点を明確にする公判前整理手続が宮崎地裁で続いている。
被告・弁護側は、現場に落ちていたナタには被害者男性の指紋が残っているはずで、その証拠は「正当防衛」を裏付けるはずだと考えていた。
画像データの開示を渋る警察、そして「消された」34枚の画像の痕跡が
ところが、検察側は画像データの開示を渋り、起訴から約2年後にようやく「原本」とされるSDカードを開示した。問題となっているのは、そのSDカードの画像データだ。
会見した黒原・西田両弁護士によると、SDカードの開示に際して検察側からは「ナタの写真はこれで全て」と明言されたにもかかわらず、専門業者に画像データの解析を依頼したところ、「原本」とされるSDカードからは赤外線カメラによって撮影された画像が33枚、普通のカメラで撮影された画像が1枚、双方合わせて少なくとも34枚の画像が消され、隠された痕跡が見つかったという。
西田弁護士は「デジタルとして正確に記録されるデータに矛盾がある。証拠が隠されて消されてしまって、原本でないものが(原本として)出されている」とし、東京地検の捜査を通じて不正をただしてほしいと強調した。
黒原弁護士は「(証拠は)有利・不利を問わず、検察側からも弁護側からも等距離にあり、あまねく提出され、裁判員裁判で判断されなければならない。それが一定の意図の下で隠されるなど、あってはならない」と述べた。
改ざんの疑いが持たれているSDカードは、キオクシア社製の「Write Once(ライトワンス)メモリーカード」。書き換え防止機能付きとされているものの、撮影データをパソコンに移し替えてパソコン上で加工・編集して別のライトワンスにコピーできることがわかっている。
ライトワンスは全国42の都道府県警察で使用されているため、改ざんの余地が残るSDカードを使い続けることへの懸念の声が、法曹界などから出ていた。西田弁護士も会見で、「このカードの技術的問題を警察庁主導で明らかにしてほしい」と語った。
現在配信中のスローニュースでは、この記者会見のノーカット動画を掲載。東京地検に提出された告訴状や隠滅された写真データの一覧もダウンロードできる記事を発信している。