劇団四季『ゴースト&レディ』から学ぶ漫画原作の舞台化のための丁寧なコニュニケーションの重要性
クリミア戦争で統計学をもとに公衆衛生の概念を広めたフローレンス・ナイチンゲールが主役。原作は『うしおととら』で知られる藤田和日郎さんの『黒博物館 ゴーストアンドレディ』。
そんな異色のオリジナルミュージカル『ゴースト&レディ』を、劇団四季が上演しています。
こんな難しい題材をどうやってミュージカルにしたのだろうと気になって、先日、劇場まで足を運んでみたら、大きな四季劇場は満席。舞台は主役の谷原志音さんはじめ、ゴーストを演じる萩原隆匡さん、『アラジン』のジーニーも人気の滝山久志さん、敵役を演じる岡村南さんたちが大熱演(特に岡村さん、すごい迫力でした)。仕掛けがどうなっているかわからない「イリュージョン」もてんこ盛りで、あっという間の時間でした。
感動のラストシーンを迎えたあとで、パンフレットをめくっていると、原作者の藤田和日郎さんのこんなインタビューが目に入ってきました。
「脚本のチェックにかなり関わったのですね」という質問に、「いったん原作をお渡しする以上、ある程度はおまかせしようと思っていましたが、脚本家の高橋知伽江さんからの希望で細かい部分まで確認することになりました」と経緯を説明しながら、こう話すのです。
実は、漫画では話のきっかけになっている「かちあい弾」、弾と弾が正面からぶつかりあってできた、この重要なパーツが出てきません。ほかにも登場しない人物や、舞台だけの人物の動きなど、原作と違う部分も少なからずあります。その裏には、こんな時間をかけたコミュニケーションがあったのですね。
藤田和日郎さんは、産経新聞のインタビューでも「作品は子どものようなもの」と言いながら、「こんなに原作を大事にしてくれると思わなかった」と話しています。
さらに付け加えると、こちらの四季の公式サイトにのった対談で、話題の映画『ラストマイル』やドラマ『アンナチュラル』の脚本家、野木亜紀子さんと藤田和日郎さんが、ドラマと漫画の表現の違いや原作者の舞台への思いなどを明かしていて、こちらも興味深いです。
近年は漫画作品のテレビドラマ化をめぐって漫画家が不幸な死を遂げる事件もありました。その背景には原作者や脚本家とのコミュニケーションが時間もかけず、ずさんで問題があったことが明らかになっています。
それとは逆に、『ゴースト&レディ』を語る藤田和日郎さんの言葉からは、作者にとって漫画の舞台化のひとつの理想でもあることがうかがえました。
丁寧なコミュニケーションがよき作品をつくり、クリエイターを守るーーそれは、編集者やプロデューサーといったクリエイティブに関わる人間にとってもっとも大事なことのひとつであると、『ゴースト&レディ』の舞台から、あらためて感じました。(瀬)
タイトル画像(右)は劇団四季ホームページより