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羽田空港でのJAL機衝突事故を可視化して検証した日経のデジタルコンテンツが世界レベルの完成度

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

JAL機炎上、そのとき何が 検証・羽田空港衝突事故

1月2日に羽田空港で発生した、日本航空機と海上保安庁機の衝突事故。その時、滑走路で何が起きていたのか。オープンにされているデータをもとに、衝突前の状況から乗客の脱出に至るまでを可視化し、問題のポイントを検証した日本経済新聞のデジタルコンテンツが発信されました。

このコンテンツに使われている表現技法が「スクローリーテリング」です。パソコンやスマホの画面を「スクロール」するのと、物語を語る「ストーリーテリング」を掛け合わせた言葉。ネットの世界では耳にすることも増えてきたと思います。

実はいま、この表現方法が大流行りしていて、猫も杓子もスクローリーテリング。ニューヨーク・タイムズは特に得意としていて、世界のデジタル表現のアワードで常連となっています。日本でも、朝日新聞が読者を先へ先へと読ませるために使っていますね。以前、スローニュースで紹介した、漫画の『満州アヘンスクワッド』とコラボした作品も、やはりこの表現方法を使っています。

ただ、なんでもスクローリーテリングにすればいいというものでもありません。中には「そんなことしない方がかえって読みやすいのに」というコンテンツも正直にいうとあります。

しかし今回の日経のコンテンツは、この表現方法と最高に相性がいい題材です。事故がどのように起きたか、ビジュアルで極めて分かりやすいうえ、スクローリーテリングは「戻る」こともできるので、従来の映像表現と違って一方通行ではない事故の再現を体感し、原因について深く考えることもできます。そして必要最小限のテキストを打ち込み、当時の現場の写真を組み合わせて、臨場感も抜群です。

まさにスクローリーテリングの特性が最大限に生かされていて、もはやニューヨーク・タイムズが賞を取ったコンテンツと何ら遜色ないと言えるでしょう。

日経のスクローリーテリングは、過去にも気候変動をめぐるもので優れた発信がありましたが、また一歩、進化したように思えました。そしてデジタルで報道するにはどんな方法が最適なのかをケースバイケースでよくよく考える必要があると、改めて思い知らされました。(熊)