陰謀論者を説得することは不可能なのか?「AIとの対話で信念が揺らぐ」という研究成果
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Durably reducing conspiracy beliefs through dialogues with AI(AIとの対話で陰謀論を永続的に減らす)
ひとたび陰謀論にはまってしまうと、そこから抜け出すのは容易ではありませんよね。実は私自身、身近な知り合いが、「自分は常にある団体から監視されている。きっとみんなもそうだ」という陰謀論にはまってしまい、1時間以上にわたって証拠をあげて説得したものの、どうしても分かってもらえずに今に至っています。その人はテレビ制作にも関わってる教養も知性もある人で、精神状態が不安定など特別な事情がある訳ではありません。それでも、どうにもなりませんでした。
そんな中、わずかな光明が見えた研究に関する記事が、サイエンス誌に掲載されています。
生成型AIとの対話によって、陰謀論の信念を捨てることができるかどうかを調査したところ、陰謀論者の信念が数カ月間減少させることができたという研究結果が出たというのです。こうした信念を変えさせるのは難しいとするこれまでの研究に疑問を投げかけています。
実験では、アメリカ人2190人がLLM(大規模言語モデル)の「GPT-4 Turbo」と会話し、自分の信じる陰謀論を証拠とともに語りました。GPT-4 Turboが証拠をあげて反論をした結果、陰謀論に対する信念が平均で20%減少し、その後も少なくとも2カ月間減少することなく持続したということです。逆にAI側が陰謀論者に説得されるようなことはありませんでした。
研究では「十分に説得力のある証拠が提示されれば、多くの陰謀論信者が見解を修正できることを示唆している」としています。
証拠なら人間でも突き付けることができるだろう、と考えるかもしれませんが、それがなかなか容易ではありません。相手が納得する証拠を次々と提示するのは、やはり人間よりAIの方が素早く効果的にできるのではないでしょうか。
それよりなにより、説得にあたった経験からいうと、なかなか信念を曲げようとしない人に、その人の心も気遣いながら長時間対話をするというのは、説得する側にとってもかなり気力、体力がいるもの。継続的に続けるには限界があり、どこかで「これはお手上げだ」と放置してしまうことも多いのではないでしょうか。
AIをファクトチェックに利用することなども考えられていますが、その手前でフェイクを発信してしまいかねない人たちに向き合うことは、より大事なのかもしれません。(熊)