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「事件を継承していかないといけない」 部落差別に向き合う虐殺被害者地元の『福田村事件』への複雑な思いと決意

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日本人同士の虐殺を描いた映画「福田村事件」の裏で、地元・香川は葛藤を抱えた 今も残る部落差別…それでも「教訓を継承したい」

関東大震災の直後、千葉県福田村(現・野田市)で、香川県からの行商団15人が地元の自警団に朝鮮人と疑われた末に、幼児や妊婦を含む9人が殺された事件を題材にした映画『福田村事件』が話題になっています。

関東大震災から100年。朝鮮人虐殺を歴史に埋もれさせようという動きが相次いでいます。小池百合子東京都知事は虐殺犠牲者らを慰霊する民間団体主催の式典に追悼文を送ることを、ここ数年やめています。松野博一官房長官は記者会見で「政府内に事実関係を把握することのできる記録が見当たらない」と言い切りました。そんな状況での森達也さんによる福田村事件の映画化は注目されています。

一方で、この映画によって、被差別部落出身という行商たちのルーツにスポットライトがあたり、地域が特定可能になる情報も流れることで、地元・香川で差別の二次被害ともいえる状況が生まれていることを、共同通信の47ニュースが取り上げています。

今回の記事はそれをただ問題だとするのではなく、そっとしておいて欲しいという願いと、遺族として亡くなった人の無念に答えたい、という葛藤を抱える地元の人を取材し、この問題の難しさを丁寧に伝えています。

この事例に限らず、差別をなくすための情報発信が、結果的に差別を助長する側に利用されてしまう例も少なくありません。被差別部落の地名リストや「探訪」動画をネット上で公表する団体や個人も現れています。こうした差別が、いまも続いていることを、われわれの社会が直視する必要があります。

福田村事件被害者の地元代表が語る、「事件を継承していかないといけない」、「悲劇を二度と起こさないためにも、差別のない社会を築き行動することがせめてもの供養になる」という決意は、差別を受けている当事者が背負うものではなく、われわれに投げかけられていることを、この記事は伝えてきます(瀬)

(共同通信社47ニュース2023/11/1)