見出し画像

2024年、世界のデータジャーナリズムトップ10はこれだ!世界調査報道ネットワークが選出

2024年に世界のメディアから発信されたデータジャーナリズムの中で優れモノはどれなのか? GIJN(世界調査報道ネットワーク)が恒例の記事を出していました。今回はそちらの内容を紹介します。

トップ10といっても10作品ではなく、10のジャンルからの優秀作です。日本からは、話題になったあの報道が選出されていましたよ!

How counties are shifting in the 2024 presidential election
(2024年の米大統領選で郡はどう動くのか)

2024年は世界的にも選挙イヤーということで、選挙に関する報道が目立ちました。選考の対象になった200の記事のうち、30が選挙に関するものだったとか。その中から選ばれたのが、こちらのワシントンポストの報道です。州の下の行政区画である3000超の郡の単位で分析したインタラクティブ・ダッシュボード。4年前と比べると、各地ともかなり「右寄り」になり、トランプ氏の躍進ぶりを明らかにしています。

ワシントンポストの記事より

So trug die AfD den Hass in die Parlamente
(AfDはどうやって議会に憎悪を持ち込んだのか)

選挙報道からもう一つ。ドイツのターゲスシュピーゲル紙は、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」がどのようにして州議会選挙で議席を伸ばしたのか。大規模言語モデルを使ってその演説を分析し、10年以上にわたって外国人移民への憎悪を駆り立てたレトリックを明らかにしています。

“We’ve Become Addicted to Explosions” The IDF Unit Responsible for Demolishing Homes Across Gaza
(「俺たちゃ爆破中毒だぜ」ガザ全域の家屋を取り壊すIDF部隊)

もうトップ画面からして衝撃です。背後からの爆風をものともせず、タバコを吸い続けるIDF(イスラエル国防軍)の隊員たち。そして画面をスクロールしていくと、あっちで爆発、こっちで爆発と、とんでもない画面が展開していきます。

ベリングキャットスクリップス・ニュースと協力し、ガザ地区でIDFが軍の施設だけでなく、住宅や宗教施設なども広範囲で破壊していることをビジュアルで明らかにしました。オープンソースの衛星画像で、ある1個大隊を追跡。得意のOSINTを駆使してSNSで共有された画像や動画から、位置を特定していきました。まるでゲームのような破壊の様子は、コミカルでさえあるのが、事の残虐性、「悪の凡庸さ」を際立たせています。

Ціна територій: темпи просування ЗСУ та ворога в людських втратах і техніці
(領土の代償:人的損失と装備の観点から見たウクライナ軍と敵の前進ペース)

戦争ジャンルからもう一つ。ウクライナの独立系メディア、テクスティはロシアとウクライナとの戦争で、領土の獲得と、人的損失や装甲車両などの兵器の損失との相関関係に関するインフォグラフィックを配信しています。こちらはシンプルなグラフのコンテンツになっています。

このほか、戦争に関するコンテンツとして、フィナンシャルタイムズのスーダン内戦に関するコンテンツを挙げています。医療施設にも壊滅的な影響を与えていることを示したものだということですが、残念ながら有料記事で内容が見られません。

Elon Musk’s Hard Turn to Politics, in 300,000 of His Own Words
(政治関連の内容が増えたイーロン・マスク氏の投稿30万語を分析)

イーロン・マスク氏は、ツイッターを買収して「X」としてからというもの、以前とは違って政治に関する投稿が増えています。ウォールストリートジャーナルが2019年から2024年7月末までの約30万語の投稿を分析したところ、1億9,500万人を超えるフォロワーに政治に関するツイートを1日平均61件投稿し、右派の論点を繰り返していたと明らかにしています。

WSJより

The fentanyl funnel: How narcos sneak deadly chemicals through the U.S.
(フェンタニルの流通経路:麻薬組織が致死性の化学物質を米国に密輸する方法)

めちゃくちゃコワイ話なのですが、ロイターが最近ではお家芸にもなっているチャーミングなイラストで、危ない化学物質のフェンタニルがアメリカに持ち込まれる手口を明らかにしています。毎日中国から到着する約400万個の小包のようなもので原料が送られてくるそうで、量が膨大なために検査が追い付いていないとのことです。

ロイターの記事より

Climate Change Is So Bad, Even the Arctic Is On Fire
(気候変動はひどくなり、北極圏でさえ火災が)

ブルームバーグが各地で発生した山火事を分析したところ、カナダやヨーロッパの北方林、それにシベリアのツンドラ地帯で例年より多くの山火事が発生していたことを明らかに。また、ブラジルからボリビア、パラグアイにまたがる大湿原のパンタナールでも壊滅的な被害をもたらしていることを地図やグラフで表現し、大量の汚染物質の排出で地球温暖化をさらに悪化させる恐れがあると警鐘を鳴らしています。

ブルームバーグの記事より

DANUBE WARMING UP
(ドナウ川の水温上昇)

「美しき青きドナウ」でも知られるヨーロッパの大河川、ドナウ川。その水温が着実に上昇してきていること明らかにしたハンガリーのコンテンツです。画面全部を使ってグラフなどで表現し、視覚的に印象深いものになっています。

JAL機炎上、そのとき何が 検証・羽田空港衝突事故

スローニュースや様々なメディアでも取り上げられ、国内でも各賞を総なめにしているので、今更紹介するまでもありませんね。日本経済新聞が1月2日に起きた羽田空港での事故について、見事なスクローリーテリングで表現したコンテンツもピックアップされていました。

How data brokers sell our location data and jeopardise national security
(データブローカーはいかにして私たちの位置情報を売り、国家の安全を危険にさらすのか)

デジタル著作権サイトNetzpolitik.orgとバイエルン放送局による報道です。ドイツで位置データをオンラインで販売するデータブローカーの存在と、それがプライバシーだけでなく国家安全保障に対する脅威であることを明らかに。一般の人だけでなく、軍や諜報機関の職員と思われる人物の位置や移動記録も含まれていたとか。このコンテンツは箇条書きのシンプルなスタイルですが、後半にこれまで重ねてきたこのテーマの報道へのリンクがあります。

China’s Great Wall of Villages
(中国の村が現代版の万里の長城に)

これまた凄い報道で、ビジュアルも冴え渡るニューヨークタイムズによるデジタルコンテンツです。中国が国境沿いにある村に多額の投資をして裕福な生活を約束。でもその背景には、隣国との領有権争いがあり、新たに50の村を建設し、数千人を移住させることで「国境の守護者」としているという報道です。

Mapa del delito
¿Te sentís inseguro en la ciudad? Compartí tu ubicación y te decimos cuántos hechos ilícitos hubo en la zona
(犯罪マップ:あなたの住む地域でどれだけの犯罪が起きているかをお教えします)

アルゼンチンのナシオンによるデジタルマップ。首都のブエノスアイレスで2023年に発生した強盗や窃盗などの犯罪をマッピングして、どこが安全でどこが多発地帯かを表現しています。物議をかもしそうですが、日本でもやってみたらどうなるかと想像しました。

Games of two eras
The Parisian Olympics 100 years later
(2つの時代のゲーム 100年後のパリ五輪)

これまた優れたビジュアル報道が多い常連のサウスチャイナモーニングポスト。今回はオリンピックが100年でどう変わったのかをビジュアル化しています。

Jeux paralympiques 2024 : les discriminations liées au handicap, en chiffres et graphiques
(2024年パラリンピック:数字とグラフで見る障害者差別)

一方、フランスのルモンドは、パリにおいて障害者がいかに不自由な思いをしているのか、交通機関や職場、学校などの状況をデータで表現しています。パリに比べれば東京の地下鉄は段違いにアクセスビリティが高いとか。

Is the love song dying?
(ラブソングは死んだのか)

これはトップ10ではなく、あくまで「おまけ」で紹介されていたものですが、見てみたらあまりにも凄い表現なのでこちらでもご紹介します。「ラブソング」は消え去ろうとしているのかを、1958年から2023年9月までのビルボードトップ10に入った5100曲をバブルチャートで視覚化したもの。カテゴリーに分類したインタラクティブな表現になっているうえ、実際の曲も聞けます(権利関係はどうしたんでしょう?)The Puddingというメディアは、こうしたユニークな表現が多いので、注目しています。

以上、これは日本でもできそうだというものもあれば、驚くべき手法、学ぶべき表現もたくさんありましたね。新たな表現を見つけたら、また紹介していきます。(熊)