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郵便局の闇、ハチの心、テクノ封建制、ブラックホール、悪魔祓い…2月の気になるノンフィクション

古幡瑞穂

JAの闇を描いたノンフィクション『対馬の海に沈む』の次は、郵便局の闇を描いたノンフィクションが刊行されてきます。

先日もヤマト運輸とのあいだに120億円という訴訟を起こした日本郵便。果たして裏側では何が起きているのか、これからどうなるのでしょう。

この『ブラック郵便局』では西日本新聞の記者である宮崎拓朗氏が1,000人以上の関係者の声を聞き、巨大組織の実態を暴き出しています。過剰なノルマ、パワハラ、既得権に群がる人々。読んでおきたい1冊です。

『ブラック郵便局』
宮崎 拓朗 (著)

 この他、2月に刊行されるノンフィクションから気になる作品いくつかをご紹介します。

『ハチは心をもっている――1匹が秘める驚異の知性、そして意識』
ラース・チットカ (原著), 今西康子 (翻訳)

ハチが群れで行動するための知能を持っていることはなんとなく知っていました。しかし、それどころか1匹1匹が高度に進化した心をもっていた、というのです。思考し、問題解決をするという驚くようなハチの実態が明らかになります。

この本では、ハチが見ている色、感覚、コミュニケーションなどが最新科学を元に語られています。心があるのだとすると、せっかく溜めた蜂蜜を人間が持っていったときにがっかりしたりするんでしょうか。なんだかとても気になります。

『テクノ封建制 デジタル空間の領主たちが私たち農奴を支配する とんでもなく醜くて、不公平な経済の話。』
ヤニス・バルファキス (著), 斎藤 幸平 (解説), 関 美和 (著)

ヤニス・バルファキスは元ギリシャの財務大臣。既刊『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話』は大きな話題になりました。

この『テクノ封建制』では巨大テック企業が資本主義を崩壊へと導くと主張しています、原著刊行時は世界的にも大きな話題になったと報じられていました。そんな話題の本がいよいよ邦訳されます。

テック企業はその技術を駆使し、世界中のユーザーを自分の領地に囲い込みます。そのサービス利用の対価は個人情報、人々は小作農のようにそれを提供されているのです。この構造がテクノ封建制。ではこの不公平からどうやって抜け出せばよいのでしょう。

『The Nvidia Way エヌビディアの流儀』
テイ・キム (著), 千葉敏生 (翻訳)

新たなテックジャイアントといえばエヌビディア。インテルの凋落と入れ替わるように登場してきたこの半導体メーカーですが、最近は新聞で名前を見ない日がないくらいの話題の企業になっています。

こちらは初の本格的なノンフィクション。どういった思想をもって、いかにして闘いに勝利してきたのか。思想やマネジメント手法なども明らかにされています。

『ブラックホールは白くなる』
カルロ・ロヴェッリ (著), 冨永 星 (翻訳)

物理分野では並ぶ者のない人気作家となったカルロ・ロヴェッリの最新作が登場。今回のテーマは「ホワイトホール」です。

2019年についにブラックホールが観測されました、理論から現実の存在になったということで、その対極の存在ともいえる「ホワイトホール」が気になるところ。

ホワイトホールとは何か、そこではどんなことが起きるのか、自身最大のテーマに挑んだ注目の1冊。

『エクソシストは語る エクソシズムの真実』
田中 昇 (著)

エクソシストが実在の存在であることは知っていましたが、まさか張本人がその実態や悪魔について語ることがあるとは。

ホラー映画等で馴染みのある「悪魔祓い」は、カトリック教会の伝統的な儀式なのだとのこと。ローマで正式なエクソシズムを学び、国内で執行した神父がその実態を語ります。語っていいんですね・・・

“【エクソシズムの儀式で実際に祓魔師が唱える「エクソシズムの式文」(訳例)掲載】
※興味本位で使用された場合、一切の責任は負えませんのでご注意ください”

というオビコメントが気になって仕方ありません。

『私たちは、トランプを選んだ ルポ アメリカ大統領選挙2024』
日本経済新聞社米州総局 (編集)

さて、今最も世界を動かしているものといえば、「トランプ大統領の就任」でしょう。自国にとどまらず、全世界にその影響が広がりそうです。

ノンフィクションジャンルでも様々な本が刊行されていくと思いますが、まずは「トランプを選んだ」アメリカのルポが発売されます。どうしてあの選挙戦になったのか、アメリカは今どうなっているのか。これからの世界を知るためにも振り返っておきましょう。

混迷の世界を読み解くのもまずは本の知識から。ぜひ書店店頭に足を運んでみてください。


ふるはた・みずほ 日販→出版社勤務。これまで、ながらくMDの仕事に携わっており、各種マーケットデータを利用した販売戦略の立案や売場作り提案を行ってきた。本を読むのと、「本が売れている」という話を聞くのが同じくらい好き。本屋大賞の立ち上げにも関わり、現在は本屋大賞実行委員会理事