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作家タブー、バブルの怪人、右翼の大物…日本大学の暗黒史に挑んだノンフィクション『魔窟』は大学版『地面師』

テレビ局の報道やワイドショーに芸能界タブーがあるように、スキャンダル報道ではイケイケの週刊誌にもタブーがあります。その代表は「作家タブー」です。

あの週刊文春だって石原慎太郎元東京都都知事の批判を載せたのは、彼が芥川賞選考委員を辞めてからでした。

ノンフィクション作家、森功さんの新刊『魔窟 知られざる「日大帝国」興亡の歴史』の書評をあまり雑誌でみかけないのは、林真理子日本大学理事長への忖度があるのではないか。そんなウワサを出版界ではよく聞きます。

実際、この本が連載をしていた中央公論新社ではなく、作家とは距離がある東洋経済新報社から出版されたことについて、あとがきで「ある事情により」と書いていることも意味深です。

「作家タブー」があろうがなかろうが、『国商 最後のフィクサー葛西敬之』で、広告の大スポンサーだったことからやはりメディアのタブーといわれたJR東海のドンに挑んだ森功さんだけに、迷走する林真理子理事長体制にもずばずば切り込んでいきます。

森さんは、このマンモス大学の課題を設立当初まで遡り、相次いでワンマン体制を生み出す仕組みや、右翼、暴力団との癒着、アメフト、相撲部に浸透する権力の構造にまでを赤裸々に明らかにしています。

独裁者、怪物ともいわれた田中英壽元理事長の奥さんがいとなむ「ちゃんこ屋 たなか」に出入りすることがお気に入りの条件になったり、ロッキード事件にも関与した右翼の大物、児玉誉士夫やバブル紳士を代表する許永中氏や司忍・六代目山口組組長が関係したりするなど、その登場人物の怪しさは、まさに大学版「地面師」のようす。Netflixでドラマにしてほしいドロドロの場面も多数登場します。

それにしても日大は古くは裏口入学から、近年では背任による理事長逮捕、アメフト部の薬物逮捕まで何度もスキャンダルにみまわれ、その都度、騒ぎになったり、改革が叫ばれたりしますが、結局、性懲りもなく事件を繰り返します。

たとえば「アメフトの反則タックル事件」。連日、テレビでも報道される大きな話題になり、記者会見も開かれ、第三者委員会が設けられました。しかし、結局、その調査結果がなにも生かされていないことにも驚きます。

ワンマンによるガバナンス、隠蔽体質、記者会見の失敗、調査委員会の形骸化ーー大学だけではなく、いま注目されているフジテレビもふくめて巨大組織の迷走はどこも同じ構造を抱えていることを思い知るノンフィクションです。いま読むべき作品なだけに、書評でもどんどん取り上げてほしいですね(瀬)

このコラムは、あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしいという方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツなどをおすすめしています。