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「この2行、なくてもいいかも」 作家の承認欲求を描いた村山由佳さんを変えた『編集者の一言』

「どうしても、直木賞が欲しい」

作家のむき出しの欲望を描いた村山由佳さんの新作『PRIZE−プライズー』。直木賞受賞作家でもある村山さんが、承認欲求モンスターともいえる作家の業に正面から挑み、そのリアルさとスリリングさが話題になっています。

その村山さんが、『週刊文春WOMAN2025創刊6周年記念号』で自身の承認欲求や文学賞への思いや編集者との関係について語っています。

自らの承認欲求や活動について、「作家を擬態している」と語るメタな視点は、やわらかい言葉でありながら人間の業にずばりと切り込んでいます。

『PRIZE−プライズー』は怖い小説ではありながら、編集者と作家の究極の関係を描いている「お仕事小説」でもあります。

編集者でもあるぼくは身につまされたり、ここまでできないと反省したりする点も多かったのですが、このインタビューでも編集者についてこう語っているエピソードが特に印象的です。

 カインが千紘と一緒にアカスリに行って、深い話をしますね。これは私の実体験です。『星々の舟』(03年刊・直木賞)を本にする時に、ある2行を削る提案をしてくれた編集者です。

では、どういう2行だったのか。

「すべてがここから始まるのだと、あの頃は二人ともが思っていた。/似てはいても違っていた。あれは、すべてが終わる始まりだったのだ」という部分で、「後ろの2行、なくてもいいかも」と言われて、その部分を隠して読んでみたら、本当にそうなんです。目が開かれた感じがしました。ああ、こういう余韻の残し方があるんだと学んだのが、この時だったんです。これはそのまま作中で使いました。

そして、この2行が物語を大きく動かします。ぜひ『PRIZE』を読んでみてください。


『PRIZE』は、冒頭40ページを無料で公開をしています。

承認欲求に囚われた作家、それを支える編集者の究極の関係を描いた小説の裏側がわかるインタビューでした(瀬)

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