【諸永裕司のPFASウオッチ】「何も説明しないし、対策も持ってこない!」静岡市長が会社に“公害の汚染者負担”求める
国際機関から発がん性を指摘されているPFAS(有機フッ素化合物)。ジャーナリストの諸永裕司さんは、静岡市にある三井・ケマーズフロロプロダクツ(旧三井・デュポンフロロケミカル)の清水工場で高濃度に汚染された排水や排気の実態を記した大量の極秘資料『ディポン・ファイル』を入手し、スローニュース上でスクープ連載を発信。PFAS汚染が全国で問題になる中、地元のみならず各地から反響の声が上がっています。
この報道を受けて、いまどう対処しようとしているのか。今回、工場が立地する静岡市の難波喬司市長に諸永さんがインタビューをしました。
「公害であるのは明らかだ」
難波市長は対外的な説明を一度も行っていない会社に、説明責任を果たすよう強く求めると語りました。主な一問一答です。
「会社から何のコメントも出ていない」
――三井ケマーズフロロプロダクツ(MCF)の清水工場による汚染について、市はこれまで会社からどのような説明を受けてきましたか。
工場の外は(MCFは)調べてない、我々が調べてるだけですよね。工場の中の汚染についての説明はほぼゼロですね。
――市長が聞いても答えない?
最低限のことは答えますけどね。どのあたりが一番濃度が高かったとかは話してくれますけど、公表は不可ということです。
――公表不可というのは、会社側から?
企業情報ですから聞いたからといって(市が)一方的に出すわけにはいかない。「公表していいですか」って聞いたら「いや、ちょっと駄目です」みたいな感じです。教えてもらっているのは、工場の西南角あたりの濃度が高いということぐらいですね。
――工場から数キロ離れた地区でも地下水汚染が起きています。
大気(汚染)以外はないですよね。あの地区まで地下水は繋がってないですから。大気で広がったものが土壌に落ちて、それが何らかの形で水に出ているっていうことだと思います。
――会社が市民に対して説明する必要性はないでしょうか。
市民に対して説明する必要はあると思います。ただし、どのぐらい使っていたかよりも、(汚染を)拡散させていた事実を認めることが大事だと思います。
はっきり申し上げますが、この会社から公式見解が出たことはない。工場の近くだけではなく、数キロ離れたところでも地下水の濃度が高いという実態に対しても、会社から何のコメントも出ていないというのが実態ですね。
――静岡市、地元自治会、MCFによる3者協議でも言及はないですか。
ないですね。(過去に)何が行われていたかの言及もないですね。
汚染者負担の原則を
――汚染対策の費用負担についてはどう考えますか。
我々はどうやって濃度を下げていくかを注視していますけど、一定の費用がかかることを会社がどうお考えなのかは、これから話をしていかないといけないですよね。(補償も含めた)法的なところまで含めてやる可能性はあります。
――会社に対して補償を求めることもある、と。
PPP(Poluter Pay Princeple)、汚染者負担の原則について検討していますが、適用できるかどうか。環境基本法とか個別法までみても明確には書かれていないので、もうちょっと詰めていかないといけない。また、法令上の問題とは別に、良識の問題がありますよね。
――良識というのは企業倫理ということですか。
そうです。仮に、法的には汚染者負担の原則は適用されないとなったとしても、「じゃあ、私達は関係ありません」で企業倫理として済むのかというのはあります。
――例えば、市が土壌や水質の改善に取り組むということは?
あまりにも範囲が広すぎるので、できないです。工場周辺だけなら、遮水壁などを設ければ汚染を遮断できると思っていたのですが、(汚染は)地下水が連続していないところにも、数キロ先まで広がっているので。
市として取り組むのは、工場からの排水が流れ込んでくるポンプ場の水を浄化することです。これを市の税金でやりますと言ったら、社会的には誰も納得しないですよね。それに対しては(MCFに)一定の負担をしてもらう。
――そういったことに関しても、会社は説明していない。
普通ならやりますよね。これだけ迷惑をかけていて。(丸山剛社長との面会でも)「やるつもりはない」ということがあって。市民に対して説明する必要性はあると思います。
――今年に入ってから、MCFとの話し合いは?
今年度に入ってからはゼロです。間違いなくゼロ。新年度こういう対策を取りますっていうふうに来られるのが普通だと思いますけども。
――そこに憤ってらっしゃる?
まあ、そういうことですね。
「公害以外のなにものでもない」
――総務省は、公害について、次のように定義しています。「事業活動に伴って生じる相当範囲にわたる大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染、騒音・振動、地盤の沈下、悪臭、健康や生活環境への被害が生じること」。清水工場による汚染がこれに当たるかどうか。どうお考えですか。
公害です。公害以外のなにものでもないですよね。法律に照らして厳密にみたわけではないですが、実態的には公害ということで十分だと思います。公への害ですから。
――飲用井戸が使えなくなった方々への補償なども必要になりそうですね。
本来は、1軒1軒自ら調べて自ら対策を取るっていうことは、やらないといけないと思います。ただ、(住民から)申し出があった場合は対応されてる。でも、本当にそれでいいんですか、ということは問われてもおかしくないですよね。
――市長もそろそろ堪忍袋の緒が切れると。
何回も切れてますけど。例えば(MCFが昨年、ポンプ場に設置した)活性炭による浄化装置は何も効かなかったんですよ。私、見に行きましたけど、見た瞬間にこんなもの効くわけないとわかるものを設置して、それで何カ月失ったんですかって。そのときはずいぶん言いましたよ、いい加減にしてください、と。
今後の取り組みは
――今後、市として取り組んでいくことは?
とにかくポンプ場ですね、ポンプ場の排水を何とかしないといけない。あとは(遮水壁の設置による汚染の)遮断ですよね。遮断してもらわないと納得できないです。
――どうみても公害で、企業として社会的な責任を果たしてほしいと。
今後の対策は一体どうされるんですかと。これまでは企業の良識におまかせしていましたが、そろそろこちらから申し上げないといけない時期かなという感じだと思います。
――PFOSとPFOAは国が規制対象にしています。ただ、これに代わって使われている物質についてはノーチェックです。欧米ではPFASをグループとして規制すべきという議論もある中で、どう考えますか。
化学物質の安全性ついては、市が判断するには限界があり、権限も及ばないころがあるので、そこには踏み込みません。そこは国でやっていただきたいですね。
スローニュースの報道を受けて、市民も動いた。工場の元従業員、住民、医師、弁護士らは18日、市民団体「清水PFAS問題を考える連絡会」を立ち上げ、住民の血液検査などを会社に求めていくという。
諸永裕司(もろなが・ゆうじ)
1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘 沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
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