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「内部告発は組織への裏切りではなく、公益のため必要なこと」今の時代にこそ読みたい、組織と告発者を取材したルポルタージュ

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

「ルポ 内部告発 なぜ組織は間違うのか」

広島県警、鹿児島県警、そして兵庫県など。いま、組織の不正を「内部告発」する動きが相次いでいます。

しかしスローニュースでも何度もお伝えしているように、「公益通報制度」がその趣旨の通りに理解されているのかと、首をかしげるような対応ばかり。改めてこの制度について学び、理解する必要があるのではないでしょうか。

行政機関だけではありません。企業をはじめ、あらゆる組織が向き合うべき問題です。

そんな中、今だからこそ改めて読みたい本があります。それが16年前の2008年に出版された『ルポ 内部告発』です。

大手自動車メーカー「三菱自動車」の二重管理による巧妙な欠陥車隠しが内部告発によって瓦解し、最後には社長まで有罪判決を受けたケースを筆頭に、くず肉を食肉製品に混ぜていた「ミートホープ」事件や、北海道土産の定番「白い恋人」の賞味期限の先延ばし、廃業にまで追い込まれた「船場吉兆」、建材メーカーの「ニチアス」による耐火用建材の検査での不正行為など、一時期の「内部告発の連鎖」とも言えるような事件の数々を、組織内部への取材や裁判資料によって明らかにするルポルタージュになっています。

それぞれの事件から見えてくる教訓が重要なのはもちろんのこと、なぜ内部告発が「組織への裏切り」ではなく正当に評価されなければならないかのか、内部告発がなければ社会にとって「不特定多数に対する殺人」といえるような大きな影響が続いていたことなどが浮かび上がってきます。

また、実名で警察の裏金を告発し続ける警察官や、配置転換など32年に及ぶ不当な扱いを受けても定年まで闘い続けた社員の姿など、告発者の実像を描いていて、なぜ告発者は保護されなければならないのかをも伝えています。

さらに、実際に内部通報に対する企業の取り組みの実例も紹介されています。これはその後、どうなったのかを知りたいので、ぜひ続編を書いてもらいたいところですね。

本書の著者の一人、奥山俊宏さんは、現在は上智大学の教授という立場になりましたが、「公益通報制度」の重要性を説き続けていて、スローニュースでも兵庫県の事例に合せて寄稿をしています。

本書を読まれた上で現在の記事を読むと、さらに理解が深まると思います。(熊)