ジャニーズとメディアの関係、検証の「はじめの一歩」がようやく…メディア各社はどう向き合っていくのか
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
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“ジャニーズ性加害”とメディア 被害にどう向き合うのか
NHKが昨夜、クローズアップ現代でメディアとジャニーズ事務所との関係性を問う報道を発信しました。NHKの芸能番組の元幹部をカメラの前に連れてきてしゃべらせ、民放も含めて関わってきた数十人に話を聞き、なぜメディアは歪で不均衡な関係性を変えることができなかったのか、問う番組でした。
放送後の反響はさまざまで、「お茶を濁しているだけだろ」というものから、「本気度が伝わった」というものまで両極端でした。
今回の番組については、放送前から一定程度の期待はしていました。取材・制作に関わっているスタッフたちをよく知っているからです。政治や行政の闇、犯罪者集団、宗教……NHKの中でも、特にハードルの高い問題ばかりに取り組んできたスタッフたちだからです。彼らと連絡をとったわけではありませんが、「どうにかしなければならない」という強い思いでやっていること、しかしやはり内部でも協力的でない人もいることなどは漏れ伝わってきていました。
その彼らの「本気度」は、画面を通しても伝わってきました。ただ一方で、登場した弁護士が話した通り、まだまだこれからです。「突っ込みが足らない」ということ以上に、利権でがんじがらめになったメディアと芸能界の関係は、構造的に変えなければ再び問題が起きるのが火を見るより明らかだからです。メディア界全体の倫理観が高まらなければ、根本的な解決にはつながりません。
性加害の認識に立てず 鈍感だった新聞 ジャニーズ依存深めたテレビ
朝日新聞も、9月7日から「帝国の闇 ジャニーズ性加害問題」という連載を始めています。こちらも同じように、「突っ込みが足りない」という声は上がっています。
ただ、執筆者の一人である編集委員の大久保真紀さんは、BBCの報道当初から朝日新聞もしっかりと伝えるべきだと、消極的な編集幹部に強く進言していたと仄聞しています。残り2回、果たしてどのような内容になるか、注目しています。
一方で、民放などはやはり動きが鈍い感じがします。調査報道を次々と手掛け、実績のある幹部さえ、「ジャニーズを扱うのは自分も慎重になってしまった」という話をしていました。
なぜそうなるのか、思い当たる節があります。それは、よく言われる「ジャニーズへの忖度」ということだけではありません。
かくいう私も、文春のジャニーズ報道があったころにNHKにいたわけですから、間違いなく「見過ごしてきた」一人です。何も偉そうなことは言えません。でも、だからこそいま、重大なことを見落としてきたことを改めて振り返えらなければならない思いがしています。
新聞・テレビは信頼を取り戻せるか
『新聞・テレビは信頼を取り戻せるか』という本があります。わが師であり、NHKの中でも検察取材などを通して権力と対峙する報道を意識して取り組んできた、小俣一平さんの著書です。まるで今の状況を表しているようなタイトルですよね。
この中に、ある定義が登場します。それは、「特別調査報道」という言葉です。
調査報道の中でも、特に「権力」「権威」ある者や組織の不正や腐敗、怠慢などを取材対象とし、その報道に各社が追随し、そのことで国民の関心を高め、「権力」や「権威」に何らかの影響を与える報道、としています。ジャーナリストが目指すべき、報道の境地を示しているのだろうなと思いました。
「権力」というのは政治権力に限らない、とはされているものの、類例として挙げられているのが、「田中角栄研究」、「KSD事件」、「菅生事件」など。どうしても「国家権力」を意識したものになりがちです。
文春がジャニーズを報じたころ、「あれは文春に任せておけばいい」と私も含めて多くの大手メディアに所属するジャーナリストが言っていたのではないでしょうか。私に関して言えば、「自分は国家権力と対峙するもっと大きな仕事で忙しいんだ」という傲慢な理由を盾にして、面倒くさそうなものには関わりたくないとも考えていたのかもしれません。
しかし「もっと大きな権力」はあらゆるところに存在します。朝日連載の「帝国の闇」という言葉が表しているように、ジャニー喜多川氏は、それこそ隠然たる「権力」になっていたわけで、それに気づけなかった私は本当に意識が低かった。世界的にもあまり類例をみない多くの被害者を出した「プレデター」を放置してしまったわけですから。
小俣師匠は「おいおい、俺はそういうのも含めて権力と対峙しろと言ったはずだぞ」とお怒りになるかもしれませんが、正直、不肖の弟子には、そんなセンスはありませんでした。
時代とともに権力の在りようやその姿は違ってきます。そこにちゃんと気づけるのか。それは今この瞬間にも起き、何か大事なものを見落としてしまっているのかもしれません。それを改めて考えさせられています。(熊)
(NHKクローズアップ現代 2023/9/11)
(朝日新聞 2023/9/7~)
(平凡社 2011/11/15)