【揺らぐ死刑判決】「自らが裁かれる」ことを恐れずに『真相の再検証』に踏み込んだ西日本新聞の決断
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元死刑囚は真犯人だったのか…「飯塚事件」でスクープを連発した「西日本新聞」が“ゼロからの再検証”に挑んだ理由
2022年4月にNHK BSで放送され、文化庁芸術祭・テレビドキュメンタリー部門大賞を受賞した番組「正義の行方 飯塚事件30年後の迷宮」が、映画版として4月27日から劇場で公開されています。
1992年に福岡県飯塚市で2人の女児が他殺体となって発見された飯塚事件。犯人として逮捕された久間三千年さんは死刑判決を受け、08年に執行されました。
しかし、その後、判決に大きな影響を与えたDNA鑑定の信頼性が疑問視され、また有罪の決め手になった証言者も警察に誘導されたことを訴えるなど、判決の根拠は大きく揺らいでいます。
映画「正義の行方」は当時捜査にあたった刑事や、取材した地元紙、西日本新聞の記者など関係者へのインタビューを通じて、この事件をあらためて検証したドキュメンタリーです。
特に印象的なのは、捜査関係者がさまざまな疑問を突きつけられても見直す姿勢はなく自信満々なのに対し、西日本新聞は当時、報道にあたった記者や取材幹部が、自ら再検証をすることを決断したことです。
映画にも登場する西日本新聞の幹部、元幹部に、ノンフィクション作家の高橋ユキさんがインタビューした記事が今日の必読です。
今回のように自社の記事について、その内容が正しかったのかを検証することは、新聞社として異例です。
もともと目撃証言の信頼性など、逮捕直後からさまざまな疑問がありました。それでも有罪判決が出たことを、「自分たちが報じてきた通りの結末を迎えたことに、ほっとしたっていう気持ちの方が大きかった」とまで語っていた記者。それが、なぜおかしいと思うようになったのでしょうか。
このインタビューは、赤裸々にその経緯や葛藤を明らかにし、そして事件を覆う「正義」とはなにかという問題を浮き彫りにします。
あらためて真相解明を望むとともに、「自らが裁かれる」ことも恐れず再検証に踏み切った西日本新聞とその記者たちの決断に、事実に対して謙虚であろうとするジャーナリストとしての気概に敬意を示したいと思います。
警察や裁判所など司法にはその覚悟はあるでしょうか(瀬)