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政界からの圧力・忖度はあったのか、そして最も読まれた「意外な記事」とは【NHK政治マガジンの興亡④】

6年の歴史に幕を下ろした「NHK政治マガジン」。話題を呼んだウェブメディアは最終的には「民業圧迫」の象徴とまで言われました。どのように生まれ、どのような役割を果たし、どうして廃止されたのか。その秘話を8回にわたってお届けしています。

第4回は、「政界からの圧力や忖度はあったのか」について打ち明けます。そして全期間を通して最も読まれた記事についても紹介。

ジャーナリストの須田桃子さんが、「政治マガジン」を立ち上げ、3年間編集を担当した、熊田安伸・元NHKネットワーク報道部専任部長に聞いています。


読まれる法則が見えた

須田 さて、100万PVも達成したということですが、「こういう記事は読まれる」という法則のようなものは見えて来たんでしょうか。

熊田 はい、前から言っている「一人称で書く」「インフルエンサーに拡散してもらえる」ということ以外にも、いくつかなるほどということが見えました。

まずはこれも大ヒット作なんですが、「世界から『ヴ』が消える」という記事。外務省が国名の日本語表記から、「ヴ」をなくすという話のいきさつを解説したものなんですが、完全に予想外の反応が起きました。

要するにSNS上で、「大喜利」が始まったのです。読者がみんな、自分の身近な「ヴ」に引き寄せて、それがなくなったらどうなるのかというつぶやきをつぎつぎと投稿していました。

政治マガジン「ヴの消滅後、世界でなにが」より

「大喜利」というと、どうなのかと思うかもしれませんが、決して悪いことだとは思いません。つまりは読者が自分の身近な事象に引き付けて、「わが事」として考えているということですから。同じように社会課題を「わが事化」してくれるような記事づくりを意識しました。

もう一つは、いまウェブメディアをやっている人なら誰でも意識しているであろう「エバーグリーン」です。要するに、いつまでたっても古びない、何度でも読まれる価値や情報が盛り込まれた記事ということです。政治マガジンを立ち上げる前の2016年の勉強会で、朝日新聞のデジタルを牽引していた藤谷健さんから教えてもらいました。

たとえば日韓の軍事情報包括保護協定「GSOMIA(ジーソミア)」をめぐる記事。配信した時には全然読まれなかったのですが、それでもいいと思っていました。というのも、きっと読まれる時がくると思っていたからです。

案の定、日韓の協定が崩れるかもしれないというぎりぎりの局面になった時に、「そもそもどういうものだっけ」とよく読まれました。先にSEOは難しいという話をしましたが、この記事のタイトルは端的にそうなっていたんじゃないでしょうか。

河井案里議員が自民同士で争って初当選した選挙の記事の場合、最初からよく読まれていましたが、夫の河井克行議員とともに公職選挙法違反に問われた事件の際、再び爆発的に読まれました。

しかし結局は、実直に「公共メディア」の役割を果たした記事が一番読まれた

熊田 しかし、ここまで説明してきた演出のことが全部当てはまらない、本当の意味での良記事が生まれています。

それが新型コロナウイルスのために「緊急事態宣言」が出るかもしれないとなった際に発信した記事「ロックダウンとは 実際どうなの?」です。もう何百万PVにまで達したか、数えられないくらいよく読まれました。

この記事が特殊なのは、それまでに培ってきた演出などを一切、やっていないことです。

本当にロックダウンのようなことが実行できるのか。外出はどうなるのか、イベントは、学校は、企業は、休業の補償は、交通機関は、マスクはなど、その時点でおよそ考えつくありとあらゆる人々の疑問にQ&A形式でひたすら答えていくだけの記事です。

以前の回でも説明した通り、政治マガジンの編集に当たっては、「読了率」を気にしていて、小見出しをどういうタイミングで付けるか、下手をすると離脱ポイントになってしまう画像はどこでどういうものを入れるか、パラグラフの長さはどれくらいが最適なのかなどを普段は一生懸命考えるのですが、この記事だけはそんなこと関係なく、とにかく箇条書きで。

これこそ、政治マガジンの、いや公共メディアの果たすべき役割なんだなと強く感じましたし、決してテレビではできない情報提供型のサービスジャーナリズムに力を入れるべきだと再確認しました。

実は「固定読者」は少なかった…いや固定読者に期待してはいけないのかも

須田 政治マガジンは固定客というか、毎週定期的に読んでくれる読者もいたんでしょうね。

熊田 それがそうでもなかったんですよ。まず、爆発的に読まれる記事が出た時には、9割が新規ユーザーでした。基本的にSNSから流入してくるパターンで、昼にツイートするとドカーンと上がり、また夕方にツイートするとドカーンと。下のグラフのピンク色で表示しているところです。

一方で新規の記事が読まれていない時はこんな感じ。検索での流入が中心で、なんとかアクセス数を保っている。ブックマークして毎週ダイレクトに来てくれている人がいるような感じではありませんでしたね。

数百万のフォロワーがいるNHKニュースの当時の公式Twitterアカウントが拡散の原動力になっていたことは否めません。

また、「政治」を打ち出しても、それで読者が来てくれるわけではないということもよく分かりました。実際、NHK NEWS WEBに政治マガジンの「フタ」と呼ばれる画像を張っていましたが、それをクリックして読んでくれる読者はほとんどいませんでした。

これをやめて、それぞれの記事のサムネイルを張ったことで、アクセスが極めて向上しました。いまもメディアのサイトで「フタ」を使っているところがあります。特に新聞社は「ワッペン」の付いた特集などでやりがち。だからそういうのを見ると、もったいないなあ、と思いますね。

もちろんPV偏重というのはよくありません。でも当時の政治部長が「10万PVを超えたら政治部長賞を出す」というのを始めてしまって。ただ、PV重視を始めると、記事の種類が偏ったり、「釣り」だけの記事になったりするとよく言われますが、そういうことはありませんでした。そもそも経験上、「釣り」をしたところでPVは伸びるものでもないというのが実感です。

まあこちらも、本来は政治部幹部が評価しなさそうな内容のいい記事については、10万PVを超えたら記者の称揚のためにその賞を利用させてはもらいましたが。

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