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鹿児島県警が報道機関にガサ入れする異例の暴挙、現場で何が起きていたのかを全て語る【緊急イベントリポート①】

鹿児島県警の本田尚志・前生活安全部長(60)が内部文書を漏えいしたとして、国家公務員法違反の罪で起訴された事件をめぐり、スローニュースは緊急トークイベントを6月24日に開催しました。その様子を4回にわたってお伝えします。

登壇したのは、告発文書を受け取った札幌市のライター小笠原淳さん(55)と、警察の強制捜索を受けた福岡市のニュースサイト「HUNTER(ハンター)」代表の中願寺純則さん(64)、公益通報(内部告発)に詳しいジャーナリストで上智大教授の奥山俊宏さん、調査報道グループ「フロントラインプレス」代表の高田昌幸さん。そして、司会はジャーナリストの長野智子さんです。

第1回は、小笠原さんと中願寺さんが、告発文書を受け取った経緯や、警察による突然の捜索の詳しい状況について語っています。

構成:スローニュース 岩下明日香


事件の経緯

鹿児島から届いた封書「闇をあばいて」

長野 まず、当事者の小笠原さんと中願寺さんに、実際に何があったのかを順を追って説明をしていただきたいと思います。まず、小笠原さんに告発文が届いた経緯などご説明お願いします。

小笠原 4月3日午後、雑誌「北方ジャーナル」の編集部宛に茶封筒が届きました。郵便受けに投函する形ではなく、配達員が手渡しで持ってきました。10円不足だったんです。鹿児島からだったので、なかなか珍しく、印象に残りました。差出人は書いてありませんでしたが、受け取らないと宙に浮いてしまうというか、最終的に処分されてしまうだろうと思い、その場で10円を払って受け取って、すぐ開封してみたんです。

内部文書が入っていた茶封筒を見せる小笠原淳さん

茶封筒の中には、「闇を暴いてください」という文言があり、A4の紙10枚。鹿児島県警の未発表と思われる不祥事3件の概要をまとめた文書と警察の内部文書と思われる資料が入っていました。

こちらは札幌にいるものですから、手を付けるのは難しいと思い、これをPDFにして、その日のうちにHUNTER編集部の中願寺さんへ共有したんです。こういう内部告発みたいなのが来ましたと。中願寺さんと「これをすぐに裏付けとるのは難しいね」という話をして、それで一旦終わったんです。そこからしばらく忘れていました。

茶封筒の中身に「闇をあばいてください。」と書かれていた

高田 小笠原さんは北海道札幌市在住ですが、遠く離れた福岡県にいる中願寺さんに送ろうと思ったきっかけは?

小笠原 札幌にいながら鹿児島の情報提供について裏付けをとるのは難しいなと思ったんです。それよりは何度か記事を書いたことがあるHUNTER編集部であれば、同じ九州だし、取材をやりやすいんじゃないかという単純な理由からです。

高田 小笠原さんは、過去に何度も内部告発の文書を見たり、手にしたりすることがあったと思います。今回は手に取って、これは本物だなと直感するものはありましたか?

小笠原 かなり具体的に書いてあったので、おそらく事実だろうなと感じました。

「捜査資料を速やかに捨てろ」と求める文書がHUNTERでの報道で変化

奥山 今回送られてきたその封書には、小笠原さんが以前記事にした、書類を「速やかに廃棄しましょう」という内容の「刑事企画課だより」(注:事件記録を保管せず速やかに廃棄するよう求める県警の部内文書)があったと思います。

小笠原 ええ、「刑事企画課だより」が2種類入っていていました。一つ目は、昨年10月付の「刑事企画課だより」です。「速やかに廃棄しましょう」とか「保管していた捜査書類やその写しが組織的にプラスになることはありません」という文言があることについて、HUNTERで取り上げました。

もう一つ同封されていたのは、その後に配られた同じテーマの「刑事企画課だより」ですが、文言が改まってソフトになっていたんです。(送ってきた人物の)趣旨としては、HUNTERで記事を出す前と後の2つを比較して、県警はこれだけ意識している、ということを言いたかったんじゃないかなと思います。

奥山 6月21日、鹿児島県警による記者会見で、小笠原さんがハンターに出した、書類廃棄を促す趣旨の「刑事企画課だより」第20号の記事について、鹿児島県警が東京の警察庁に報告したところ、これはまずいという指摘を受け、新たに第23号で文言を削除した「刑事企画課だより」を出し直したというように鹿児島県警は説明していました。

ということは、ハンターに寄稿した小笠原さんの記事がきっかけとなって、鹿児島県警における不当・不正な文書管理を、警察庁の指導により正されたということが言えると思います。

小笠原 なるほど。おそらく、そうかもしれません。

文書の送り主は?内容の信ぴょう性は?

長野 小笠原さんはこれまでにも内部告発文書を受け取ってきたと思いますが、鹿児島県警についてはこれまでに何回くらい受け取ってきたんでしょうか。

小笠原 今回が初めてです。

長野 本田元生活安全部長からの内部告発がはじめて?

小笠原 厳密に言うと、誰から送られてきたのは、今でもわかりません。匿名の域を出ていないんです。

奥山 県警本部の中で、「刑事企画課だより」を手にすることができる立場にある人であろうということは推定できますね。

小笠原 正直、こうなると想定していなかったですし、裏付けを取るにはかなりの時間がかかると思いました。送り主には申し訳ないけれど、目の前の札幌の方の仕事を優先せざるを得なかったので、当時はさほど関心を惹かれてはいなかったんです。

奥山 鹿児島県警の記者会見では、ストーカー事件の被疑者だった霧島警察署の警察官からストーカー被害を受けた女性の名前と年齢が記された内容が、小笠原さんの受け取った文書に入っていたということで、秘密漏洩だと鹿児島県警は主張していました。実際にそういう内容があったのか、差支えのない範囲でうかがってもよろしいでしょうか?

小笠原 おそらく、本当のことを書いていると信ぴょう性を担保したかったのだと思います。正直、こういう類の投書で個人情報を書いてあるものは結構あります。嫌味なことを言うようですが、警察はしょっちゅう個人情報を漏らしているわけで、それほどたいそうなことだとは思わなかったです。

スローニュース熊田 それを受け取ってから、警察側からも小笠原さんにアプローチがあったんですよね。その経緯も教えてください。

小笠原 本田前生活安全部長が逮捕されたという報道が5月31日にあり、それまではまったくなにもありませんでした。4日後の6月4日朝に鹿児島県警から任意で封書を提出してくれと言われました。本来であれば、そもそも受け取ったかどうかを含めて言う必要はないんですけど、たまたま電話で聞いて、あの封書のことかと思い出したんです。

前週に本田前生活安全部長が逮捕されたことがあったので、ちょっと待ってと。封書がないのに何で逮捕できたんだという疑問が浮かんだんです。それでつい、事実上受け取ったということを認める会話になってしまったんです。「なんで見もしないで逮捕できるんだ」ということを勢いで聞いてしまったんです。向こうは答えなかったですけど。

HUNTERへの強制捜索、警察は突然やってきた

長野 中願寺さんの場合は別件の強制捜査を受けたことからはじまりますが、警察の強制捜査を受けた一連の経緯をご説明お願いします。

中願寺 2021年9月に鹿児島県で起きた強制性交事件を取材して記事を書き始めたのが発端です。この取材を続けていくなかで「告訴・告発事件処理名簿一覧表」を入手し、昨年10月からこの件について報道を始めていました。今年に入って、事件処理名簿一覧表の枚数が増えます。この処理簿がきっかけだと思いますけど、2月から県警とやり取りはしていたのですが、4月8日にいきなり家宅捜索に来られました。

ここから先は会員限定です。突然の強制捜索で何が行われ、何が押収されたのかを中願寺さんが詳しく語ります。そして「警察が削除したデータが実は残っていた」とこが明らかに。

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