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ドラマ『セクシー田中さん』事件の報告書から見える「作家性」の軽視をベテラン編集者が読み解く

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なぜ、作家性は守られなければならないのか?──ドラマ『セクシー田中さん』で浮き彫りになった原作者軽視の悲しき慣習

日本テレビが制作したドラマ『セクシー田中さん』が、原作者の漫画家、芦原妃名子さんの死という悲しい結果につながってから、半年が過ぎました。

この間、制作放送した日本テレビ、原作の刊行元である小学館から、それぞれ経緯についての「調査報告書」が公表されました。

この問題について、新潮社の元『フォーサイト』編集長や松本清張さんや塩野七生さんの担当者をつとめたジャーナリストの堤伸輔さんがGQに寄稿した記事が、この事件にとどまらず、『作家性』とはなにか、作家と作品の関係、編集者の役割とは、といった問題に深く踏み込んでいます。

膨大な数の映画、テレビ番組が生まれている松本清張さん。その作品の映像化については、ご自身が細かい注文を厳しく出していたといいます。それほど、作品にこだわる作家にとって、映像化というのは難しいのです。

一方で、その清張さんも、「自分の作品世界をよく理解した上で脚本家や演出家がそれを上回る描き方をしてきたら有難い」と漏らしていました。

そうした映像化は数えるほどしかなかったといいますが、しかし、その世界観をよく理解したうえで、筆者をもってして自作を超えているという作品があったこともまた事実です。

それだけ、しっかりとした世界をもつ作品の映像化は労力のかかる、大変な作業だということです。

その認識が、日本テレビの報告書からは感じられない、作家性への理解、思い入れが欠けているのではないか、ということを堤さんは指摘します。

一方の小学館側にも、作家の意向や思いをきちんと伝えていたのか、という点で疑問を示します。終盤で登場する「一切変更不可」という言葉をもっと早く伝えていれば、不幸な事態を招かなかったのではないかと。

私自身は報告書を目にしたとき、編集者としてそのとき自分だったらどうしたのだろうか、ということを考えて読みました。そして、残念ながら同じ失敗をしかねないと思った部分も多々ありました。それゆえ、堤さん以上に出版社側に責任を重くてみています。

だからこそ、同じ不幸を二度と繰り返さないためには、事実と向き合い、その問題点を改善していく必要があります。それは、これまでの仕事のやり方を大きく変える、厳しい部分がテレビ局だけではなく、出版社にとってもあり、それは避けきれません。

それが、作家を守ること、作家性を守ることです。

そして、「いまからでも、芦原さんの「表現者としての尊厳」を守るための事実の見直しと、それに基づく発言や行動を、すべての関係者の皆さんにお願いしたい」という堤さんの願いには強く共感します(瀬)