メジャーリーグ大激論!「ピッチクロック」導入の背景にある徹底したデジタル改革と成功体験
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米メジャーリーグのデジタル顧客体験改革、年間球場来場者数が9.6%増
メジャーリーグの選手会が3月6日(日本時間7日)、ピッチクロック制度に反対する声明を発表。選手会のトニー・クラーク専務理事は、投手の故障が相次いでいる原因だとして、「選手たちがそろって反対している。健康と安全への重大な懸念がある」と訴えました。
投球間の時間を制限する「ピッチクロック」は試合時間の短縮を目的に、2023年から導入されました。投手は走者なしで15秒以内、走者がいる場合は20秒以内に投球動作に入るというルールです。
実際に試合時間が短くなったため、2024年からは走者がいる場合はさらに2秒短い18秒以内に投球動作に入るなど、前年より厳しくなりました。
それにしても選手会の反対があっても、なぜMLB(メジャー・リーグ・ベースボール)がピッチクロックの導入に固執するのか。実は、これには市場拡大を目指したDX改革が関連するのです。
3月27日に米国ラスベガスでアドビ社が開催したカンファレンス「Adobe Summit 2024」で、MLBチーフオペレーションズ&ストラテジーオフィサーのクリス・マリナック氏が基調講演を行いました。その内容をアドバタイムズが紹介しています。
それによると、MLBは「試合の長時間化により若者の野球離れが進んでいるのではないか」という仮説をもとに、ここ数年、試合時間を短くするためのさまざまなルール改定を推進。ピッチクロックを導入した2022年から2023年にかけて年間の球場来場者数が9.6%増加したというのです。
試合時間の短縮化に並行して、DXにより顧客体験を刷新しました。
その肝になったのは、顧客のファーストパーティデータを収集し、顧客をより正しく理解することです。試合をリアルタイムで追えるアプリやチケット購入サイトを通じて、1億人の顧客データを蓄積。それを元に、球場での体験をデジタルで底上げしてきました。2017年にはデジタルチケットの利用者が14%だったのが、2023年には91%にのぼったということです。
これまで55歳以上と見られていたワールドシリーズの視聴者の平均年齢は45歳、さらに2023年に新たにMLBのファンデータベースに加わった顧客の平均年齢は36.2歳ーーといったユーザーのデータを元に、1to1のコミュニケーションを図ってきました。具体的な施策は、ぜひ記事を読んでもらえればと思います。
ユーザー理解を深めた徹底したパーソナライズ戦略とその成功体験は、DXに取り組むニュースメディアにとっても参考になります。同時に、選手の体調や故障に影響を与えているとしたら、どういう対策を打つのか、MLBの改革から目が放せません(瀬)
(タイトル写真はイメージ)