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岐阜市のホームレスはわずか3人は本当か?生活困窮者の実情を明らかにした新聞社の調査報道

最近、都内の公園でもホームレスの姿を見かけることが少なくなってきました。果たして、ホームレスは減っているのでしょうか。彼らはどこに追いやられてしまっているのでしょうか。

同様の疑問から今年2月にスタートした岐阜新聞の連載キャンペーン企画『ホームレスは、どこへ行った―岐阜の現場から―』は、統計にはあらわれない生活困窮者の実情を明らかにしていきます。

厚生労働省による2023年の「ホームレスの実態に関する全国調査」では、岐阜県内のホームレスはわずか3人にしかいません。 岐阜市の担当者は取材に「市内にホームレスはいない」と断言します。

しかし、この連載では地方紙のよさをいかした丁寧かつ執念深い取材で、公園や道の駅で声をかけたり、あるいは定点観測をすることによって、表には出にくくなっている生活困窮者の状況を明らかにします。その背後にある自治体のずさんな対応が浮き彫りになります。

ある男性は生活保護を申請するために5回ほど市役所を訪れるものの、そのたびに窓口で追い返すいわゆる「水際作戦」で断られ、廃コンテナでの生活を余儀なくされます。そのコンテナ内部の写真はなまなましく彼の生活を語ってきます。

こうした事例を取材して集めまわりながら、岐阜新聞社が岐阜市などに情報公開請求により裏付けをとります。21年度、市は延べ3104件の生活保護の相談に対応していますが、申請に至ったのはわずか371件にとどまっていたのです。相談者から申請にいたったのはわずか13.5%。20%を切る自治体は県内では唯一です。全国平均は66%ですから、岐阜市の数字はかなり低いのです。

いうまでもなく生活保護は申請を出したからといって、受給されるわけではありません。そこから本当に必要かという審査が行われます。その申請のまえに断るのは、生活困窮者への重大な権利の侵害です。にもかかわらず窓口で追い返している実態が、この数字でも明白です。

救いがあるのは、このキャンペーンによって問題が顕在化し、市議会で取り上げられたこともあり、市役所の対応も変化していることです。

生活保護の相談から申請にいたったケースは2022年度にわずか20.0%だったものが、23年度は36.7%に急増しています。報道がはじまった2月以降に、水際作戦を緩和した可能性があるのではないかと、岐阜新聞は見ています。

もちろん、生活困窮者の救済は簡単ではありません。その実態把握すらむずかしいのが実情です。

この連載の中でも、困窮して車中生活に追い込まれながら、カレー弁当を差し入れられても人付き合いが苦手だと逃げる男性や、やはり車で生活するホームレス状態なのに「家は改築中」と取材にも偽る家族の姿などが描かれています。実態をつかんだり、手を差し伸べることは容易ではありません。

だからこそ、地元に根ざし、時間をかけて丁寧にとりくむ地方紙記者たちの活動に期待したいと思う連載です(瀬)

このコラムは、あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしいという方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツなどをおすすめしています。

岐阜市役所の写真:著作権者・運動会プロテインパワー  CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=111577473による