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男性タレントの表紙はどうして始まったのかという女性編集長の独白、そしていま再び……

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ジャニーズ性加害「魂の苦しみ」をどう救済するか

毎日新聞のウェブサイトのコラム「メディア万華鏡」から取り上げました。ジャニーズ事務所の性加害に関する1回目の記者会見の5日後に出た記事です。

書いているのは、元サンデー毎日編集長の山田道子さん。2019年にすでに退社されていますが、いまでもコラムを寄稿されているようです。

記事の主たる部分は、性加害を受けた人の「救済」というのは、何をもって可能となるのかを問いかける重いものでした。

しかし、注目したのはその部分だけではありません。

サンデー毎日といえば、9月26日発売の号で、「ジャニーズ問題と日本社会の民度」という鼎談を全面に押し出しているのに、表紙にSexyZoneの松島聡さんを使っていることで、「いったどういうスタンスなんだ」と見る人を困惑させ、話題を呼びましたよね。どうしてこうなったかという理由はすでに様々なところで説明されています。注目したのはその背景事情ではなく、もっと根源的な部分です。

このコラムは、その号が発売になる前に発信されたもので、山田さんが編集長時代に、「男性を表紙に使い始めた理由」を述べています。

当時、総合週刊誌といえば、表紙は女性タレントだというのが定番。「なぜ女性だけが見られる対象なのか」ということに疑問を抱いて始めたということです。

「見られる女性、読むのは男性」という構図の背景には社会的な構造がある。そしてそういう社会の在り方こそが、「男性の性被害を見えにくくしている原因になっている」ということ。その背景の詳しい話は、毎日新聞の音声メディア「今夜、BluePostで」の、「男性の性暴力被害~ジャニーズ問題から考える」の回でも聞くことができます。(実際、私はこちらで聞いて知ってから、コラムを読みました)

男性の写真を使った表紙は、当時は驚きをもって迎えられたということです。強い変革の決意が背景にあったことを、初めて知りました。

とはいえ山田さん、今回のジャニーズ問題に際して、忖度したことはなかったものの、「男性を表紙に起用したほうが売り上げがよいことが多く、中でもジャニーズのタレントの“貢献度”は高かった」と打ち明けています。そのうえで「意図的に避けてはいないが、積極的には向き合わなかった」「私も「沈黙」に加担した」と独白も。

ところで、サンデー毎日、あの表紙の写真は、やはり編集部内でも思うところがあったようで、公式X(旧Twitter)では普段は表紙の写真を載せていますが、この時は載せていませんでした。

いま、どうなっているのだろうかと思い、Xを見てみたらなんと……

表紙はアイナ・ジ・エンドさん。女性になっていました。例の号の後から、新しい編集長が携わっているそうです。

強い意志をもって行われた変革、しかしいま再び、これまでの在り方を変えなければならないという新たな舵取り。メディアは時代とともに何が大切なのかを見つけ、変わっていくものなのかもしれません。(熊)

(毎日新聞 2023/9/12)