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災害前線報道ハンドブック【第4章】復興フェイズ④必ず起きてしまう談合の調べ方

スローニュース 熊田安伸

巨額の予算が投入される復興事業では、必ずといっていいほど談合事件が起きてしまいます。どのように取材すればいいのか、当局の情報に頼ることなく報じることはできるのか。そしてどんな視点で報じるといいのかなどについて解説します。


なぜ復興事業では不正が起きやすいのか

大きな災害の後には、巨額の復興特別予算が組まれます。多くが壊れた公共施設の復旧や、地域の暮らしの復興おために使われますが、過去の大災害では必ずといっていいほど、復興事業・復旧工事をめぐる不正が起きています。

なぜそうなるのか。「一刻も早く復旧・復興を進めることが何よりも大事だ」という大義名分あり、しかも莫大な予算がつくため、「無駄遣いをなくそう」というインセンティブが働かなくなるのです。それが、結果的に公金のずさんな使い方を招いていました。

東日本大震災のがれき処理事業では、宮城県石巻市の建設会社・藤久建設による度重なる水増し請求が発覚し、詐欺の罪で社長が有罪判決を受けました。当時は、自治体による十分なチェックがないせいか、言い値のまま水増しした金額が支払われていたと証言する別の業者もいました。

「復興特需」とも言われる状況のなか、業者が「焼け太り」しているケースも見られました。

談合事件の調べ方

中でも目立つのが、自治体の職員と業者が癒着した、官製談合事件です。発注側も職員が入札の情報を事前に漏らすことで、業者同士が「調整」して入札するというものです。

というわけで、談合事件が起きているかどうか、調べるツールについて解説します。

「談合事件」の取材を行うときに必須の資料が「入札調書(入札経過調
書)」をはじめとした、入札関連資料です。

各省庁や地方公共団体は、「公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律」によって、以下の情報を公表しなければならないと定められています。

一 入札者の商号又は名称及び入札金額、落札者の商号又は名称及び落札金額、入札の参加者の資格を定めた場合における当該資格、指名競争入札における指名した者の商号又は名称その他の政令で定める公共工事の入札及び契約の過程に関する事項

二 契約の相手方の商号又は名称、契約金額その他の政令で定める公共工事の契約の内容に関する事項

以前は情報公開請求でしか入手できませんでしたが、最近ではネットで公開する官庁や自治体が増えてきました。

例えば、石巻市のホームページでは、発注した公共工事の入札結果を公表しています。以下は2023年5月10日に入札が行われた、「的場橋橋梁災害復旧工事」のものになります。

石巻市のホームページより

石巻市が設定した予定価格が1億6697万円2余り。予定価格というのは、発注する自治体側がこの事業に出してもいい金額の上限で、その金額以下で最も低い価格で入札した業者が落札できるわけです。

この事業では6社が応札し、最も低い1億4735万円で入札した企業が落札していることが分かります。

入札調書で特に注目するのは、予定価格に対する落札価格(自治体によって表記が違います)ですが、この石巻の調書でいうと、入札価格対する落札額の割合「落札率」です。この場合は88.24%、書類上は特に問題は見られないということになります。

なぜ落札率に注目するのか、以下に述べます。

入札に問題があるかをどう見極めるか

業者はなるべく高い金額で受注したいので、予定価格=上限にできるだけ近い金額で落札しようと考えます。そこで入札する業者同士で事前に打ち合わせて、どの業者が幾らで落札するかを決めてしまうことがあります。これが「談合」と呼ばれる問題です。

談合が行われているのであれば、落札金額は予定価格に近くなっていくので、「落札率」は高くなります。そこで、談合が起きていないか見分ける方法として、落札率についてこんなことが指摘されてきました。

【日弁連報告書】
・談合が行われている場合……98%、99%
・自由競争……75%、80%

【公取委・竹島委員長(当時)発言】
・談合をやめた場合、落札率は平均18.6%下落

【市民オンブズマン】
・95%以上……談合の疑い極めて強い
・90%以上……談合の疑いあり

2005年に発覚した新潟県中越地震の復興事業をめぐる川口町の官製談合事件では、問題となった工事の落札率が99.75%でした。川口町発注の工事は軒並み落札率が高く、事件の前から談合などが行われていないかと懸念されていました。

談合が行われたのは田麦山小学校の復旧工事。現在は閉校している(2023年11月撮影©Google)

では、落札率が90%以上なら談合をしているといえるかというと、それは推測にすぎません。仮に99.99%だったとしても決して断定はできないのです。入札調書には役に立つ情報が含まれていますが、これらはあくまで取材のきっかけにするための参考資料だと考えてください。

ただ、入札調書を見てすぐに「これはおかしい」といえるものもあります。それは予定な発注で入札が形骸化しているということで、どちらにせよ問題です。

新潟県中越地震のあとも入札について調べていたところ、新潟県警察本部が発注した交通違反の反則切符の入札で、同じ業者が5年連続で予定価格と同額で入札していることが判明しました。超能力者でもなければできない芸当で、情報が漏れているか、入札が形骸化しているかのどちらかしか考えられません。全国に広げて調べたところ、5つの府県でも同様の100%入札が見られ、スクープとして報じました。災害対応で重要な除雪車の入札でも、100%入札が発覚しました。

ここから先は会員限定です。入札について調べられるツールや、取材する際の視点について紹介します。

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