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「逃げるが勝ち」第2シーズン発信へ その前に第1シーズンで「驚くべき3人の逃走劇」を振り返ろう

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逃げる、逃げる、彼らは逃げる。
刑務所から、警察署から、厳重警備の監獄から。
逃走すれば、判決がそれだけ重くなり、受刑者であれば刑期が延びる。むしろ逃亡犯の方がさらにリスクは高い。それなのに、なぜ相次ぐのか。なぜ逃げ、どこを目指したのか。

高橋ユキが描く異色のノンフィクション「逃げるが勝ち」は、逃亡犯本人に「なぜ逃げたのか」を問い、知られざる逃走劇の顛末を明らかにした話題作だ。今月、待望の第2シーズンの連載が始まる。

それを前にぜひ第1シーズンで、驚くべき3人の「大逃走」エピソードを振り返ってほしい。

1人目は、空き家をめぐる「丁寧すぎる逃亡者」

「すいませんでした」

そんなメモを刑務所の職員が靴箱で見つけたのは、逃走の1時間後だった。

逃げたのは、当時27歳の平尾龍磨。国内に4か所ある“塀のない刑務所”の1つ、松山刑務所大井造船作業場にいた「模範的な受刑者」のはずだった。

民家から盗んだ乗用車を走らせ、向かったのは、道路で結ばれた離島の向島。そこで彼は、無人の家屋に潜伏。空き家などを転々とするが、警察官が数百人態勢で捜索しても見つからない。

潜伏した民家

その後、彼は瀬戸内海の尾道水道を泳いで渡ることを決意。激しい海流をなんとか渡り切って本州側へ。結局、逃走から22日後に広島市内で身柄を確保された。

「前略 ご返事を差し上げるのが遅れて申し訳ございません」

丁寧に書かれた彼の手記には、空き家での潜伏生活や、警察官の捜査の在り様をめぐる知られざるエピソードがつづられていた。

なぜ彼は、脱走することを選んだのか――。

2人目は、みんな騙された「自転車で日本一周!」

「行くぞ! 日本一周中 お助けお願いします」

青いバックパックに貼り付けてある紙には、こんなメッセージが読み取れる。大きな荷物を後ろに積んで、白いロードバイクを走らせるのは、丸刈りの、日に焼けた若者。彼が警察署から逃げ出した逃亡犯だと、一体誰が思うだろうか。

33歳の樋田淳也は、警察官がスマホでアダルト動画を見ている隙をついて、大阪・富田林警察署から逃走した。

盗んだスポーツタイプの自転車で四国へ。「会社を辞めて自転車で日本一周をしようと思った男」という設定を作り上げ、お遍路の旅を装う。

別の自転車旅の男性と同行したり、出会った人にご飯をごちそうになったり。みんなその設定を信じてしまう。警察官も顔を見ても疑わない。

山口県周南市で逮捕されるまでの49日間で、計1000キロ超を移動。この間、大阪府警が投入した捜査員はのべ8万7000人。なぜ、捕まらなかったのか。

刑務所から筆者に届いた手紙などから浮かび上がる、前代未聞の逃走劇、そして彼の主張とは。

3人目は、4度も逃げた「昭和の脱獄王」

吉村昭の小説『破獄』、そして野田サトルの漫画『ゴールデンカムイ』に登場する脱獄囚。どちらもある人物をモデルとしている。

「昭和の脱獄王」と呼ばれた白鳥由栄だ。

青森をはじめとして、秋田、網走、札幌と、4施設からの脱獄に成功し、合計3年間も逃げ続けていた。その脱獄には彼の〝執念深さ〟そして〝特異体質〟が存分に発揮されている。

回を重ねるにつれ、より厳重になっていった警備をどうやってかいくぐったのか。それほどまでに脱走を繰り返した理由とは。そして、晩年の生きざまは。

生前の会話などから、その姿を活写する。

第2シーズンで新たなエピソードを

第2シーズンでは、新たに取材した逃亡犯の、知られざるエピソードを明らかにする。

高橋ユキはこう書く。

「脱獄や逃走は法に触れる行為、いわば〝悪いこと〟だ。そうだと分かっているのに、脱獄をテーマにした小説が人気を呼び、漫画に登場する脱獄犯が受け入れられる。実際の逃走犯や脱獄犯の報道があれば、世の中が大騒ぎする。過去も現在も、タブーだと分かっていながら密かにその存在に惹かれ、時にロマンすら覚えてしまう我々の心理は、『博物館 網走監獄』そのものが体現しているように思える」

一方、経営者であるメルカリCEOの山田進太郎は、こんなふうに読む。

「仕事では付き合う人がどうしても同質化しがちです。でも、本の世界、特にノンフィクションの本の中には、これまでもこれからも自分の人生に接点が全くなさそうな人がたくさん描かれています。保釈中や拘留中に逃走する人が何を考えているかは、普通に暮らしていたら想像がつきません。いや、想像しませんよね、普段は。そんな世界を僕は純粋に知りたいし、実はビジネスの根幹にもつながっています」

あなたならどう読みますか、「逃げるが勝ち」。

(文中敬称略)