イラクに残された「謎の巨大湿地帯」とそこに住む人々に挑んだ「傑作」ノンフィクション
あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。
きょうのおすすめはこちら。
『イラク水滸伝』(高野 秀行著)
クルマはもちろん、馬もラクダも、そして戦車も使えない。
イラク南部の巨大な湿地帯「アフワール」は、権力に抗うアウトローや迫害されたマイノリティが逃げ込むカオスそのものの土地です。
その謎の地に、冒険ノンフィクション作家の高野秀行さんが挑んだ『イラク 水滸伝』は、間違いなく今年必読のノンフィクションです。
固く言えば「中東情勢の裏側と第一級の民族誌的記録」と名を打てるフィールドワークなんですが、あの『幻獣ムベンベを追え』『謎の独立国家ソマリランド』の高野さんですから、おもしろくないわけがない。
このアナーキーな現代の梁山泊に住む面々をただ称えるわけではなく、その暗部もきちんと描き込み、その距離感も絶妙です。
そして、なにより取材の合間で現地の人からご馳走されるイラク料理があまりにも美味しそう。「鯉の円盤焼き」、どこかで食べられないだろうか。(瀬)