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証拠メールを発見!汚染拡大の原因は経産省の「お墨付き」か【スクープ連載『デュポン・ファイル』第14回】

国際機関から発がん性を指摘されている有機フッ素化合物の「PFOA(ピーフォア)」。三井・デュポンフロロケミカルの清水工場(静岡市)で通称C-8として半世紀以上にわたって使われ、工場の内外を汚染していた。その工場内の極秘データが収められた「デュポン・ファイル」を入手。5万ファイルに及ぶ膨大な資料を紐解きながら、「地下水汚染」「排水汚染」「大気汚染」「体内汚染(従業員)」の実態を描く調査報道シリーズの連載第14回。

汚染が広がった原因に、実は経済産業省も深く関係していた。そのことを示すメールを、「デュポン・ファイル」の中から発見した!そこに書かれた経済産業省の担当者が話した内容とは。衝撃のスクープを発信する。

フリーランス 諸永裕司



「経産省のお墨付き」で汚染拡大?

「デュポン・ファイル」の中に、汚染拡大の原因の一つになったことをうかがわせる重要な記録を発見した。

2003年1月9日、同じPFOAを使用するダイキン工場の化学事業部保安管理室の担当者から届いた、短いメールだ。ライバルであり同業者でもあるダイキン工業と三井・デュポンフロロケミカルは、担当者どうしが情報交換をしていたようだ。

規制対象となるのはペルフルオロオクタン酸、つまりPFOAだけ、との見解を経産省が示したことを伝える内容だった。

APFOは対象にならないとされたが、デュポン本社が2007年9月に作成した資料「PFOA Best Practices」にはこのような記述がある。

APFOはPFOAと同じ8つの炭素からなる構造を持つ化学物質で、呼び名も同じ「C-8」。社内では同列のものとみなしていた。それだけに、APFOも規制の対象とみなされるかどうかは、両社にとって事業の根幹にかかわる関心事だったのだ。

元従業員はこう証言する。

「PFOAとほぼ同じ構造で末尾にアンモニウム塩が加わっただけのAPFOは、PFOAと同じ毒性があるにもかかわらず、経産省は『規制の対象にはならない』とした。お墨付きをえられたことで、会社は生産を続けることができたばかりか、工場外への排出にも歯止めがかからなかったのだろう、と思います」

PFOAとAPFOの化学式(不使用を宣言しているドイツの化学メーカー「BOLA」のサイトより)

経産省の「金子」とは誰か

工場にとっての生命線は絶たれずに済むことを伝えた経産省の「金子」とはいったい誰なのか。

調べてみると、その名前は「平成14年度化学物質環境汚染実態調査物質選定検討会」という会議の議事要旨の中に記されていた。
https://www.env.go.jp/chemi/sentei-ken/140627.html)

(画像を加工しています)

この検討会は、化学物質と環境問題にかかわる政策課題に対応するため、新たに平成14(2002)年度に設けられたもので、そこにオブザーバーとして参加していたのだ。

第1回会議では、どの化学物質を調査対象にするかが議題に上り、事務局を担う環境省の担当者は次のように話した。

<初期環境調査候補物質のPFOS、PFOAについては中環審(注:中央環境審議会)化学物質小委員会で「指定化学物質」相当との判断があり、また反復毒性も有るため要望した>

委員からは、要望どおり初期環境調査の対象にしたほうがよいとの意見が出され、座長も「ぜひ入れたい」と応じている。

こうして半年後の2002年12月、PFOAは「難分解性および長期毒性を有する疑い」があるとして、化学物質審査規制法(化審法)の「指定化学物質」に位置づけられた。

さきのメールの日付は、その直後の2003年1月だ。つまり、ダイキン工業の担当者は、指定化学物質の対象となるのはPFOAだけで、APFOは外れることを経産省に確認し、その旨を三井・デュポンフロロケミカル側に伝えてきた、ということだろう。

経産省化学物質安全室は取材に「お問い合わせの『メール』について弊室として把握しておらず、それを踏まえたご質問にはお答えできません」と答えた。

PFOAは早くに監視対象となったものの、APFOとともに長く規制の網にはかからかなった。

「PFOAとその塩(APFO)」が、製造・使用を禁止する「第一種特定化学物質」に指定されたのは2021年。残留性の高い有害物質を規制するストックホルム条約(POPs)で「廃絶」とされた翌年、清水工場で使われなくなった8年後のことだった。

その裏で、会社は密かに代替物質の開発を進めていた。

(続く)

次世代の代替物資「GenX」とは何か。日本で今も使用されているのか。現在配信中のスローニュースでは極秘のプロジェクトに迫っている。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com

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