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「自分と同じ尊厳のある人間だと見ていない」警視庁内規から考える治療中の手錠使用と立ち合いの是非

警視庁に詐欺容疑で逮捕された日下早苗さん(48)は、勾留中の2023年8月、心臓の病気で救急搬送された際、手錠につながれたままの状態で治療を受けさせられた。

今回の取材で明らかになったのは、情報公開請求で入手した内規「警視庁巡回護送規定の制定について」の問題点だ。

警視庁の内規は、国際基準や関係法令の原則に反している可能性がある(全2回のうちの2回目)。

スローニュース 宮崎稔樹/フロントラインプレス


戒具の利用はどこまで許されるのか

刑事施設の管理や被拘禁者の処遇の在り方について国際基準となるのは、国連の改訂被拘禁者処遇最低基準規則だ。2015年5月、国連の犯罪防止・刑事司法委員会で採択され、「ネルソン・マンデラ・ルールズ」と呼ばれるようになった。

その規則47には「移送時の逃走の予防装置として使用可能」とある。ただし、欧州安全保障協力機構が作成したマンデラ・ルールズの解説書では「移送という事実だけで戒具の使用が必要になるわけではない。戒具をしようするかどうかの決定は、対象者がもたらすリスクについてケースバイケースで判断されるべき」と説明されている。

国内法では、「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」が留置施設での戒具の使用要件を定めている。具体的には以下だ。
(1)護送する場合
(2)逃走するおそれがある場合
(3)自身を傷つけ、又は他人に危害を加えるおそれがある場合
(4)留置施設の設備、器具その他の物を損壊するおそれがある場合

大切なのは、これらの基準は戒具を「使用できる場合」を定めているのであって、「使用しなければならない」という義務規定ではないという点だ。そもそも基本的人権の一つである身体の自由を制限するという行為は、抑制的でなければならないし、国際基準も国内法もそれを基本にしている。

実際、同法の立案に携わった法曹関係者は著書『逐次解説 刑事収容施設法 第3版』(有斐閣、2017年)の中で「上記の使用要件が備わっている場合であっても、具体的な必要もないのに捕縄又は手錠を使用することができないのは当然であり、他の措置を執ることの合理性・妥当性を勘案しつつ、その使用の当否を考えるべき」(p.352)と述べている。

情報公開請求で入手した警視庁の護送に関する規定/宮崎稔樹撮影

情報公開請求で入手した警視庁内規の問題点

被拘束者の扱いについて、警視庁は「警視庁巡回護送規程」という内規を1994年7月に定め、現在もこれに沿って業務を続けている。ところが、同時期に出された通達「警視庁巡回護送規程の制定について」には、前述のような国際的な原則に反する可能性がある記述があることが分かった。この通達は「規定」の運用マニュアルのような位置づけで、規程の条文ごとに警察官はどのように動くべきかが記されている

問題の箇所は規程第20条「疾病等の措置」に対応する通達の記述だ。具体的には通達「第3 運用上の留意事項」の項目15(1)に記されている。

この先は会員限定です。診療時の手錠の使用を定める警視庁内規の問題点を明らかにするほか、警察官の立ち合いがもたらすプライバシー上の問題、日本の刑事施設において医療の独立が守られていない点を指摘します。

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