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「保守とはなにか」 福田和也さんが文壇の大御所たちと喧嘩をしながら遺した本気の一冊に思う

福田和也さんが亡くなりました。

いま、もっともその声が聞きたい人でした。

ネトウヨに侵食される保守論壇、上皇が誕生した令和の皇室、書店離れとノンフィクションの衰退…福田さんがどう見ているのか、気になっていました。

若くして、当時はメディアの中ではマイナーだった保守論壇のスターとして脚光を浴び、論壇、文學界ではオピニオンリーダー的な存在でした。同時に雑誌やテレビなどでも軽妙な切り口でひっぱりだこ。そんなに忙しいのに、夜は毎晩のように朝まで酒を飲むーーそんなエネルギッシュな方でした。

ただ、ここしばらくは体調を崩し、執筆活動などもほとんどお休みしていたので、心配していました。

編集者時代に福田さんとは毎週のように飲んでいた時期があります。政治や小説の評価や噂話、馬鹿話をネタに朝まで飲んでいた席で、福田さんは保守とはなにかを問われたときに、「保守とは横丁の蕎麦屋を守ることである」という福田恆存の言葉をよく引き合いに出していました。

コロナ禍で久しぶりに出した著書は、その言葉を引用したタイトルでした。その中で福田さんは、こう記しています。

飲食店は、料理や酒を出して利益を得ているだけの存在ではない。店主はそれぞれ、こんな料理を世の中に提供したいという志をもって開業し、それが支持されて繁盛店にもなり、何代も続く老舗にもなる。老舗とまではいかなくとも、町に根付き、人々に親しまれているのであれば立派な文化である。

最後にいっしょに飲んだのは、盟友でもあった坪内祐三さんの葬儀のあとでした。「今度は、ひさしぶりにコロナを生き残った、あのとんかつ屋にいきましょう」と別れました。

今日の必読は、僭越ですが福田さんの数多くの著作から一冊を紹介したいと思います。やはりこの本、「作家の値うち」です。

ワイン評論家のロバート・パーカーを模したとうそぶきながら、大御所から若手の作品までを忖度無しで採点した本の出版は、当時、文壇では「騒ぎ」になりました。

同じ作家の小説でも、高評価をつけるものがあれば、最低と切り捨てるものもあり、作家との関係性に依存しない評価は、新鮮であり、緊張感に満ちていました。

この本が出たことで喧嘩をした作家、関係が悪くなった出版社もいくつもあったと聞きます。

福田さんらしい本気の本です。

福田さんが遺した一冊を読みながら、今夜は偲びたいと思います。