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「捜査費の不正は間違いない。このままでは闇に…」書類送検の内容とは全く違う不正の実態とは

広島県警の不正経理問題で、県警はカラ出張で出張旅費などを不正に受け取ったとして、警察官3人を詐欺と虚偽公文書作成・同行使の容疑で広島地検に書類送検した(送検と発表は今月8日)。

警察としての事件処理はこれで一段落したことになるが、一連の不正経理を在職中に公益通報(内部告発)した元巡査部長の男性(40代)と代理人の清水勉弁護士は「事件処理の中身と実際に起きていたことが全く整合していない。このままでは全体像が解明されないまま幕引きされる」と憤る。

闇に葬り去られようとしている“真実”とは何か。フロントラインプレスはこれまで警察関係者らの取材をもとに「巨額の捜査費不正を隠蔽するためのカラ出張だったのではないか」との見方を伝えてきたが、元巡査部長も新たに「捜査費不正が絡んでいることは間違いないでしょう」と証言した

書類送検で「幕引き」しようとする警察

各メディアによると、書類送検の内容などは以下の通り。

書類送検されたのは県警本部勤務の男性警部(53)と警察署に勤務する男性警部補(50)、同じく男性巡査部長(35)の3人。

3人の送検容疑のうち、警部は福山市内の警察署の警備課長だった2019年4月から2020年10月にかけ、計18回にわたって虚偽の出張願を作成するなどし、合わせて約6万6000円を詐取した疑い。警部補と巡査部長は警備課員として勤務し、警部の部下として勤務して働いていた2019年7月、やはり虚偽の出張願を作成するなどし、合わせて約8600円を詐取した疑いが持たれている。3人は容疑を認めているという。3人には不正受給分の返金も求めた。

一方、地元紙・中国新聞の報道によると、これとは別に現職の警察官と元警察官(=内部告発した元巡査部長)の2人についてもカラ出張があったことが確認され、不正な公金を受け取った者は計5人を数えた。これら5人の不正受給は旅費と時間外手当で総額約16万7000円に上った。しかし、送検された3人以外は「裏付けが十分にできない」として送検されず、返金のみを求めることにしたという。

広島県警察本部(撮影:スローニュース)

また、3人に対する懲戒処分も発表された。警部は減給1カ月、残り2人は戒告。警部は書類送検と同じ今月8日に依願退職した。一方、不正を内部告発し、これまで広島で2回の記者会見を開いた元巡査部長の男性は送検されなかった。

「全く実態を反映していません」

不正経理問題に関する書類送検が明らかになった後、元巡査部長は新たにフロントラインプレスの取材に応じ、「全容を全く明らかにしないうちに事件に幕引きがされる」と強い危機感を示した。

――報道された送検容疑を見て、どう思いましたか。

「全く実態を反映していません。(当時の上司である)警備課長は18回のカラ出張をやったが、実は出張申請の出ていない別の日に1人で現場に行ったと釈明したそうです。そうだとしたら計画を無視した行動ですし、警備事案で計画に反した行動を取るなど、あり得ません。それに別の日に本当に現場へ行ったかどうか誰にも分かりません」

――あり得ない、とは?

「われわれ公安警察官の業務は非常に特殊です。問題のカラ出張は主に捜査協力者との接触でした。担当していた事案は必ず2人、場合によっては3人で組んで活動しなければならない性質のものです。課長が協力者に会い、それを別の課員が確認するわけです」

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「(特定秘密保護法の)特定秘密に関わる恐れもあるので、その内容、つまり課長が会っていた捜査協力者の属性や氏名、場所、もちろん内容などは一切言えません。私がカラ出張で得た出張旅費の金額をこれまで具体的に言わなかったのもそのためです。出張旅費は私有車を使った際のガソリン代ですが、1キロ35円と規定で決まっていますから、旅費支給額から計算すれば移動距離がわかり、同心円上で行き先も特定できてしまうかもしれない。そこまで気を遣っていました。しかし、報道を見た限りですが、課員を休ませるためにカラ出張で自宅に待機させ、自分は別の日に1人で行っていたという釈明は明らかにおかしい。そんな活動はわれわれの任務では許されません。必ず複数で行かねばならないんです」

「過激派などの捜査協力者に現金を手渡しすることも。捜査費の経理手続きは行われていた」

――それはなぜですか?

「一つは安全のためです。捜査協力者といっても、例えば相手は過激派の一員だったりするわけですから、万が一の危険に備えなければならない。防衛のためです。もう一つ、捜査協力者に会うときは、協力者のご苦労に応える意味もあって捜査費を渡すことがあります。それなりに大きな金額です。相手の立場や状況を考えると振り込みもできませんから、捜査費は現金で手渡しします。そのへんは、過去に捜査費が裏金になっていた刑事警察も同じでしょう。その受け渡しにおいて間違いが生じないように、ペアを組む別の捜査員が面会時の異常の有無や計画通りに運んでいるかどうかを確認するわけです」

――あなたは2019年から2020年にかけ、少なくとも6回のカラ出張を指示されたと在職中に内部告発しました。その中には捜査協力者に捜査費(国費)を渡す、という任務もあったのでしょうか。

「捜査費の執行者は上司ですから、私は私の体験として話すことはできません。しかし、捜査協力者と接触する際に捜査費を執行するというのは、常識的には十分にあり得ることです。それに今回のケースでは出張申請に合わせて捜査費の経理手続きが行われていたことも知っています」

「けれども、カラ出張の際、私は自宅待機を命じられているのです。そして現場に行ったのか行っていないのか分からない課長から電話を受け、課長の言う内容をメモし、そのまま自分も現場に同行しているふうを装って県警本部にリアルタイムで報告していました。そうせよ、と命令されたからです。警察官にとって命令は絶対です」

警察官募集を呼び掛ける広島県警察本部のポスター(撮影:スローニュース)

――そうすると、捜査費の執行が伴う出張申請があった際に、あなたはカラ出張を強いられて自宅におり、本来確認すべき捜査費の受け渡しを確認していないわけですか。

「仮に捜査費の受け渡しが出張の業務に含まれていたとしても、私はそれを確認できていません。でも、もし県警の監察官が確認しようと思えば、それは簡単なことです。捜査費の執行に関する経理書類や捜査協力者との接触に関する記録は警察内部で厳重に保管されていますから、捜査協力者に会い、捜査費をいついついくら受領したかを確認すればいいだけです。その協力者の存在が特定秘密になっていれば監察官も手を出せないのですが、その場合は特定秘密を扱う資格を持った公安部門の上層部の者が確認に行けばいいのではないでしょうか」

内部告発者が送検されなかった裏にある理由とは

――今回、あなたのもとにも県警から不当に得た出張旅費と時間外を返還するように連絡が来ましたね?

「来ました。旅費は6回分で計25,060円、時間外手当は5回分で計30,580円。両方とも発生時からの損害遅延金が付いています。内部告発してからずいぶん年月が過ぎたのに、遅々として動かなかった調査と捜査のおかげで遅延金も付きました(笑)」

――しかし、あなたは書類送検されませんでした。

「私は公益通報のあと、速やかに犯罪の申告(自首)も行いました。上司が部下に『カラ出張しろ』と命じる異常。犯罪をしろと命令されるわけです。警察官としての仕事に誇りを持っていたのに、どれほど傷付き、心が折れたか。それでも私は警察が好きだったし、自浄能力を信じていました。だから警察は自らの威信にかけて全体像を明らかにするだろうと思っていたし、そうしてほしかった。でも、そうじゃなかった。ものすごい喪失感があります。それに、自首した私がなぜ送検されないのか……」

内部告発した元警察官の男性(撮影:スローニュース)

――逮捕される覚悟もできていると何度もフロントラインプレスのインタビュー取材や記者会見で話してきたのに、逮捕どころか、送検されなかった。それは、なぜだと思いますか?

「検事の取り調べに私を行かせたくなかったのでしょう。検事の前で何をしゃべり出すのか、心配だったのかもしれません。一連のカラ出張に関してまだ話していないことがあるのではないか、それに関して何か動かせぬ証拠を持っているのではないかと警察は心配しているのだと思います。私も自分の身を守るためにどうしたらいいのか、常に考えています」

フロントラインプレスは、内部告発をした元警察官に対する警察内部での「口封じの証拠」を入手した。現在配信中のスローニュースでは、その具体的な中身を明らかにしている。

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