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災害前線報道ハンドブック【第1章】発災フェイズ⑤災害の「顔」に気づけるか

歴史に残る事件・事故・災害は、必ず「新しい顔」を持って現れます。逆にいえば、従来とは違う新たな課題を社会に突き付けるからこそ、歴史に残るのかもしれません。早い段階にそれに気づけるかどうかで、その後の取材が大きく変わってきます。今回はその実例と、気づくための手法について述べます。


誰も何が起きているか分かっていない

2004年の新潟県中越地震は、10月23日の本震の後も、マグニチュード6を超える余震が長く続いたのが特徴でした。それが従来の災害とは違う、思わぬ事態をもたらすことになりました。

発災から2日後の10月25日から、奇妙な警察発表が相次ぎます。

10月25日午前9時55分送信
十日町市で54歳の会社員の男性が死亡しているのを母親が発見。
「十日町署では、震災の後片付け疲れによる病死とみている」

10月25日午後1時送信
十日町市で74歳の女性が息苦しさを訴え、病院に搬送されたが死亡。
「十日町署では、震災の後片付けをした後の疲れ等による病死とみている」

10月28日午後2時30分送信
川西町で48歳の女性が起床後、突然倒れて救急搬送されたが、病院で死亡を確認。
「十日町署では、震災避難や家の中の後片付けによる過労等ストレス等に起因した災害死(病死)と見ている」

「後片付け疲れによる病死」「過労等ストレス等に起因した災害死」……なんとなく分かるような気がしないでもないですが、よく考えるとこれでは明確な死因がさっぱり分かりません。おそらくは警察当局も、この段階では何が起きつつあるのか、わかっていなかったのではないでしょうか。

新聞はどこも警察発表の内容をそのまま小さく載せた、いわゆる「ベタ記事」扱いで報じました。でも、なんだかおかしい。そう考えたNHK新潟放送局と応援に来た記者たちが、手分けをして取材を始めました。

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