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警察が払い下げた5万丁もの銃が犯罪に使われていた!米銃社会のベールに包まれた流通を7年がかりで暴いた調査報道

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

Police departments sell their used guns. Tousands end up at crime scenes.(警察が売った中古の銃が数千の犯罪現場で使われていた)

いつまでたってもなくならない、アメリカでの銃犯罪。それもそのはず、取り締まるはずの警察署が払い下げた中古品が、バイヤーを通じて大量に流通していたのですから。そのうち犯罪に使われたのが、なんと5万2000丁にものぼっていたといいます。

この調査報道は、米大手テレビ局のCBSと、銃犯罪を専門に発信する非営利の報道機関「The Trace」、そしてやはり非営利団体の「調査報道センターReveal」の三者が合同で手がけました。衝撃的なリポートです。

払い下げられた銃は、過去20年間でに少なくとも8万7000 丁以上にのぼっているといいます。

しかも、アメリカでは「社会から銃をなくすため」として自治体などが銃の買い取り回収をしていて、例えばフィラデルフィア市議会は「2021年以来825丁の銃を買い取り回収した」とサイトで自慢しています。ところが、今回入手した記録では、フィラデルフィア警察は過去20年で少なくとも886丁の銃を売っていたというのです。まるでブラックジョークのようですね。

ただ、怖いことにこれは合法的に行われているのです。連邦政府の法執行機関、つまりFBIなどの組織では使用済みの銃を廃棄することを法的に義務づけていますが、地方警察にはその義務がなく、中古の銃をどう扱うかは警察署長などに委ねられているのだとか。

中にはシアトル警察のように、「どこでどう使われるか分からない」と、銃の払下げを中止したところもありますが、そうでない警察では、まるでスマホの中古品を下取りに出して新品を買うように、銃の売却が行われています。

警察から流れてきた中古の銃は比較的安く、状態も良いので人気だそうで、オハイオ州の銃商人は、「みんな気に入っているよ。ほら、ちょうどトラック一杯分が到着したところだ」と取材に語っていました。

この警察からの大量の銃の払い下げが発覚したのは、独立系の非営利報道機関と、米三大ネットワークの一つであるCBSが連携し、長期で取り組んだ結果でした。その経緯を記した記事も発信されています。

かいつまんで説明すると、以下のようなことです。

  • 全米で年間数十万丁の銃を追跡している唯一の機関、ATF(アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局)は集計的なデータしか公表していない。

  • 2017年にThe Traceのアラン・スティーブンス記者が情報公開請求をするも非公開に。

  • Revealがスティーブンス記者に代わってATFを告訴。 3年の訴訟を経て1つのスプレッドシートが公開される。そこにデータが。

  • 2022年、The TraceとCBSがスプレッドシートに基づいて流通ルートの調査開始。全国の自治体に200件以上の情報公開請求。CBSのネットワークが役に立つ。

  • 警察関係者への取材や裁判記録なども駆使して犯罪に使用された100万丁近い銃のデータベースを構築。

  • 警察が転売した銃のシリアル番号のリストを作成し、照合。犯罪での使用を突き止めた。

それにしても、銃犯罪を専門に報じているメディアがあるとは知りませんでした。The Traceのサイトによると、この分野では「唯一の報道機関」だとして活動への支援を呼び掛けています。

テレビでの解説リポート版はこちらになります。

小さな非営利の報道機関と大手メディアの連携、やはりコラボは大きな力を発揮しますね。報道で指摘された内容も重要ですが、この調査報道の取り組みそのものも、これからのメディアの在り方に非常に希望の持てるものだと感じました。(熊)

(CBS 2024/5/16)

※サムネイルの画像は米ATFのサイトより