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総力戦研究所を描いた『虎に翼』を見て思い浮かべた、「敗戦の理由」を正面から問う本

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きょうのおすすめはこちら。

『虎に翼』岡田将生さん演じる航一モデル・三淵乾太郎が所属<ある機関>総力戦研究所とは?若きエリートたちは「日本必敗」を開戦前に予測したが…

話題の朝ドラ『虎に翼』、8月2日の展開には驚きました。

岡田将生さんが演じる星航一が打ち明けた秘密、それは彼が「総力戦研究所」のメンバーだったことなのです。

太平洋戦争開戦前の昭和16(1941)年夏、官界、学会、軍から当時の若きエリートを集めて行われたシミュレーションで「日本はアメリカに負ける」と予言されていたのです。それが、総力戦研究所です。

これまでも女性差別や関東大震災直後の朝鮮人虐殺といった問題を正面から描いてきた『虎に翼』ですが、ここで「総力戦研究所」の話が出てくるとは予想もしていませんでした。

詳しくはこちらの、婦人公論の記事をお読みください。

星航一のモデルである三淵乾太郎は初代最高裁長官の長男で、この総力戦研究所のメンバーだったのです。

この総力戦研究所を正面から描いたのは、猪瀬直樹さんの傑作ノンフィクション『昭和16年夏の敗戦』です。

データでははっきりと結果が出ていたにもかかわらず、空気で決めてしまう。残念ながら日本がいまも抱える悪癖を、残酷なまで描き出します。読んでない方には強くおすすめします。

もしもう一冊戦争についての本をあげるのであれば、吉田満の『戦艦大和ノ最後』です。

この本でもっとも印象的な場面は、必ず死ぬとわかっていて大和に乗った若い兵たちが、なぜ自分たちが死ななかればならないのか、その意味を議論し、あわや乱闘寸前になったときに、やはり若い臼淵磐大尉がこう話して皆を鎮めることです。

「進歩のない者は決して勝たない 負けて目覚める事が最上の道だ 日本は進歩という事を軽んじ過ぎた 私的な潔癖や徳義に拘って、本当の進歩を忘れてきた 敗れて目覚める、それ以外にどうして日本が救われるか 今目覚めずしていつ救われるか 俺達はその先導になるのだ。 日本の新生に先駆けて散る。まさに本望じゃあないか」

『戦艦大和ノ最期』より

「本当の進歩を忘れてきた」という言葉が、総力戦研究所と悲しいほどに重なります。

この吉田満の記述については、その真贋を巡って議論があります。しかし、大和の沖縄特攻から九死に一生を得て、その後、吉川英治のすすめで一晩で書き上げたといわれるこの小説には、当事者ならではの独特の迫力があります。

あらためて夏の読書におすすめしたい2冊です(瀬)