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「3カ月以内に週10万PVを超えなければ廃刊!」Yahoo!などのプラットフォームに頼らず、どうやってハードルを乗り越えたのか【NHK政治マガジンの興亡②】

6年の歴史に幕を下ろした「NHK政治マガジン」。話題を呼んだウェブメディアは最終的には「民業圧迫」の象徴とまで言われました。どのように生まれ、どのような役割を果たし、どうして廃止されたのか。その秘話を8回にわたってお伝えしています。

第2回は、いよいよローンチとなった後、幹部から課された高いハードルをどのように超えたのか。

ジャーナリストの須田桃子さんが、「政治マガジン」を立ち上げ、3年間編集を担当した、熊田安伸・元NHKネットワーク報道部専任部長に聞いています。


NHKでは「禁じ手」の一人称記事を発信する

須田 サイトの継続には「3カ月以内に週10万PVまでに成長」というハードルを課されたわけですが、それを達成するためにどうやってにコンテンツを作って行ったのでしょうか。

熊田 実は「こういう記事を出せば読者はつくだろう」という目算はあったんです。政治マガジンを始める前の年の2017年に、NHK NEWS WEBに掲載したある記事がとてもよく読まれました。

それがNHK松江放送局の安井俊樹記者が、地元県議会の大物議員の「政治とカネ」の不正について書いた記事です。これはテレビでも放送されたのですが、全国ニュースとして午後6時台の「流れニュース」でわずか1分半。放送されたことにさえ、多くの人には気づかれなかった記事です。

どういう経緯で取材をしたのか安井記者に直接尋ねたところ、ものすごい長文のメールを送ってきました。これはそのまま記事になるじゃないかと思い、取材のきっかけや手法、何を疑問に思い、どういう壁にぶち当たってどう突破したのかを、安井記者の一人称で書いた記事にまとめ、配信しました。これが大きな評判を呼んだのです。

記者の一人称といっても、毎日新聞の名物コーナー「記者の目」のような伝統的なスタイルではなく、いわば「ラノベ文体」。角度のついた記者の見方も晒しますし、感情まで書き込みます。そんな発信、「中立公正」を掲げるNHKではいわば「禁じ手」でした。

炎上リスクも覚悟しましたが、全く逆でした。取材の過程を公開することで報道への信頼感が生まれていることがSNSの反応などで実感できました。記者の顔が見えるような書き方が読者の共感を呼んだのだと思います。さらに報道しながら情報提供を呼びかけることで、報道との一体感が生まれたようで、安井記者のもとには、その後も情報提供が相次いだといいます。

その後、彼は長崎放送局に異動して再び「政治とカネ」のスクープをものにするのですが、それも政治マガジンのローンチ2カ月前に配信されて、やはり反響を呼びました。

政治マガジンでもこれをやればいけるのではないか。そう確信していました。

いよいよローンチ、最初は「LGBT」と「公文書」

須田 いよいよ記事を発信、となったわけですが、最初の記事はどうでしたか

熊田 やはりNHKではこれまであまり扱われてこなかったテーマを、ということで、政治部もがんばってくれました。

一つはレズビアンであることを自ら公表している、衆議院議員(当時)の尾辻かな子さんへのインタビューです。夜のゴールデン街での取材というのも、NHKとしてはなかなか斬新だったのではないかと思います。「人は、どこかでマイノリティー」というまとめも響きました。記者を最後に登場させたのも「一人称」に近づけていく狙いです。

もう一つは当時、森友学園問題や自衛隊の日報問題など、公文書管理が問題になっていたことから、それをテーマにしたものでした。テーマ設定もいいですし、取材もできているのですが、ただとにかく詰め込むことを重視し過ぎて、読みにくくなっているのは間違いないですね。最初だったので、私もまだざっくりと大ナタを振るうことができていませんでした。

最初としては悪くなかったと思ったのですが、まだ政治マガジン自体の知名度も低く、広く読まれたとは言い難い状況でした。アクセスは数千PVぐらいだったのではないでしょうか。

「安倍首相×選挙(政局)」という記事が全く読まれない! 一方で「読まれる記事」とは

熊田 そして第2週なんですが、ここで「読まれる記事」「読まれない記事」のパターンがいきなり見えたんです。

この週の特集は『安倍3選は難しい?「ポスト安倍」たちはいま』という記事と、『野中広務とは何者だったのか』という記事でした。

「安倍首相×選挙(政局)」なんてテーマ、いかにも読まれそうですよね。ところがこれが読まれない。全然、数字が上がらないのです。

実はこの後も折に触れて「安倍首相×選挙(政局)」というテーマの記事を、手を変え品を変えて配信したのですが、やっぱり読まれませんでした。もしかしたら普通の読者は政局になんて興味がないのではないか、という仮説もあったぐらいです。今でも明確な理由がわからず……わかる人がいたらぜひ教えてください。

一方で野中さんの記事は比較的、読まれました。亡くなった野中さんの「お別れの会」が開かれたことをきっかけに、生前の彼の姿を証言で描くものでしたが、「政治家の顔が前面に出る記事はやはり強い」という法則がその後も定番化していきます。

これ、野中さんの記事のほうが読まれるだろうなと思っていたので、中吊り広告風のサイトの右側(スマホで見るとトップになる)に配置したかったのですが、政治部がどうしても安倍首相の方を右にしてほしいと。最初だったので受け入れましたが、結局は読まれなかった。その結果を示して次からは「編集権」を強く主張しました。野中さんを右にしていたらもっと読まれていたのではないかと思うと、非常に残念です。

須田 テレビでも放送している内容だと、記事のアクセスが低くなるというはありませんでしたか。

熊田 いやあ、そういうわけでもないんです。

ここから先は会員限定です。1カ月の時点で最も読まれたのは意外な記事でした。そしてどのように読者を獲得し、3カ月という期限をどう乗り越えてたのか。

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