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「父親が大嫌いだった」という武田鉄矢さんの貴重なインタビューから思う、身近な人の戦争体験を聞く『機会』

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「首を斬る快感」を語るおやじが許せなくて 武田鉄矢さんと父の物語

「親父のことは大嫌いでした」と始まる武田鉄矢さんのインタビューが話題になっています。

記憶の中のおやじは、酒を飲んでは戦場体験を話していました。いや、語るなんてもんじゃなく、何というか「うめき」みたいなものかな。バラバラの断片の記憶が、お酒を飲んでうめき声と一緒に漏れてくる。そういう感じです。

 あるとき、渡河作戦の最中に流れ着いた戦友の遺体を踏んだそうです。博多弁で言うと、「靴がいぼる(埋まる)ったい、腹の中に」。内臓が腐ってズブっと腹に入るんでしょうね。その悪臭と無残さ。

武田鉄矢さんが語る戦争のトラウマを背負った父親の話は、つらく、悲しいバラードのようです。

戦争での残虐な行動や残酷な場面をときに大声で吹聴しながら、その悲惨な体験に苦しめられ、またそれゆえ家族や周囲と断絶が生まれてしまう。そんな父親が大嫌いだった武田さんの気持ちが徐々に変わり、父親の「不機嫌の正体」がわかってきたのは、その父親が亡くなってからだといいます。

朝日新聞は「戦争トラウマ 連鎖する心の傷」という連載で、出征した兵士やその家族、あるいは専門医、歴史研究者に連続インタビューをしています。この武田さんの証言は、そのひとつです。

元軍人はもちろん戦争体験者はますます高齢化し、存命の方も少なくなってきています。こうしたインタビューが資料としても価値があることは言うまでもありませんが、同時に、両親や祖父母など身近な人に戦争経験者がいれば、その体験を聞くこともまた貴重な機会です。

私の場合は父親とはそういうタイミングがないまま死別してしまいました。そのかわり、母親からは、父親(私にとっては祖父)が戦地に残されたまま母親や幼い姉弟と戦後の混乱期を必死で生き延びた経験をゆっくりと時間をとって聞くことができました。

身近な人から歴史体験を聞く機会も、失ってしまえば二度と手に入らないことを、このインタビューを読みながら思い出しました(瀬)

(朝日新聞2023/12/7)

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