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大調査 確定申告で政治献金を取り戻す国会議員たち③制度の抜け道を利用し「税金アジャース」(全3回)

(スローニュースより)国会議員が自分の政党支部に寄付して所得税の還付を受ける。こんな姑息なことがまかり通っています。

実はこのやり口、2021年5月にフロントラインプレスが全ての国会議員について調査し、明らかにしています。記事はスローニュースの前のサービスに掲載されたもので、現在は読めなくなっているため、政治とカネの問題が問われている今回、当時の記事の主要部分を再掲載することにしました。(肩書などは全て当時のもの)

フロントラインプレス

「書類は作ったが控除申請はしていない」…?

高野光二郎氏(参院=徳島・高知選挙区)は2015年の寄付250万円について、税額控除の書類を受け取った。控除の申請をした場合は約75万円が戻ってきたことになる。高野氏からはファクスで「還付金は受け取っていない」との回答が届き、ファクスにはその理由も記されていた。以下のような内容である。

「2015年に高野議員本人から政党支部に寄付があった際、当時の会計担当者が他の寄付金の扱いと同様に、寄付金控除の書類申請を選管に行ってしまった。書類は受け取ったものの、道義的に反しているとの認識でしたので、確定申告の際に書類を提出することはなく控除を受けることはなかった」

穴見陽一氏(大分1区)は2015年分の寄付金計960万円について、控除申請のための書類を選管から受け取った。税額控除を申請していれば、約288万円を還付されたことになる。穴見氏の男性秘書からは電話で回答があり、「書類は受け取ったが、控除申請はしなかった」と言う。その理由については「他の寄付者と同じように書類を作成したものの、議員本人が(控除)申請してはまずいと判断して使わなかった」と話した。

宮路拓馬氏(九州ブロック・比例単独)は2016年の寄付100万円について寄付金控除の書類を受け取った。税額控除を申請すれば約30万円が還付された計算だ。宮路氏からはファクスで「還付金は受け取っておりません」という回答が寄せられた。議員会館に電話し、控除を受けなかった理由を尋ねたところ、男性秘書が「他の寄付者と同じように議員も書類を受けたが、(控除を申請するのは)まずいことだと思って書類は使わなかった」と答えた。

開示書類の山。記載事項を丹念にチェックしていく。文字通りの地味で地道な作業の繰り返しだが、その先に議員活動の姿勢が見える(撮影:本間誠也)

還付を認めた議員たち「法に従い適正」「今後は控えたい」

政治資金の還付を受けたことを認めた国会議員もいる。

現職の国務大臣で自由民主党の衆院議員、平井卓也氏(香川1区)である。平井氏は、デジタル改革担当、情報通信技術(IT)政策担当、内閣府特命担当大臣(マイナンバー制度)であり、デジタル政権を推進する菅義偉政権のキーパーソンでもある。

平井氏は2015、17年の寄付計1500万円について、税額控除のための書類を受理していた。控除を申請して還付を受けていれば、計約450万円が戻ってきたことになる。資金管理団体と後援会には寄付していないので、前述のように、制度の“抜け穴”を知っていた可能性もある。

平井氏からはファクスで回答があり、事実上、控除申請したことを認めたうえで、次のように記していた。

「政治団体の政治資金につきましては、法令に従い適正に処理し、その収支を報告しています。個人の資産については、法令に基づき資産公開しており、法令に定める以外のことについては法令の趣旨に照らし回答しておりません。なお、政治資金規正法上、公職の候補者を含め個人から政党支部への寄付は特段禁止されておらず、また、租税特別措置法上、個人から政党支部への寄付は寄付金控除の対象になると承知しています」

平井卓也氏のプロフィルを紹介する首相官邸HP

自由民主党の衆院議員・原田義昭氏(福岡5区)も上記の平井氏と同様の主張だった。

原田氏は2015年から19年までの5年間、毎年480万円ずつ、計2400万円の寄付について、控除申請の書類を受け取っている。申請した場合に戻ってくる還付金の合計額は約720万円に上る。過去5年間に政党支部以外への寄付はなかった。

同氏も事実上、税額控除を申請したことを認めた上で、ファクスにこう記していた。

「これまで、他の多くの議員と同じように適正に処理してまいりました。これまでは問題はなかったとされています。今後、議論が深まり、何らかの明確な結論が出た場合には、それに従い、適宜適切に処理したいと考えます」

法令に則って適正に処理した――。そうした論理は、自由民主党の専売特許ではない。

立憲民主党の衆院議員・岡本充功氏(愛知9区・比例復活)は2015〜2019年の5年分について、毎年連続して控除のための書類を受け取った。寄付の合計は2400万円。控除申請していれば、計約720万円を受け取っていたことになる。この間、資金管理団体と後援会への寄付はなかった。

岡本氏はファクスで次のように回答してきた。

「法に則って処理しております。個別具体的な回答は控えさせていただきます」

実際に控除を申請したと事実上認めた内容である。もちろん、租税特別措置法に基づいて還付金を受け取るのは、違法ではない。「法に則って処理」も当たり前の話だ。フロントラインプレスが尋ねたかったのは、政治家自身がその制度を利用することについての考え方である。

政治とカネに関して政治家に質問すると、「法に則って適正に処理」という回答がいつも出てくる。

立憲民主党の衆院議員・菊田真紀子氏(新潟4区)もそうだった。菊田氏は2015年の513万4421円の寄付について、寄付金控除の書類を選管から受理している。申請すれば、約154万円が還付される計算だ。

ファクスでの回答は「受理した還付金は法令に則り適正に処理を行っております」と記されていた。税額控除を受けたことを認めているのである。その上で、「誤解を受ける恐れがあるので、それ以降の寄付については控除は受けていません」と書かれていた。2016年以降は、政党支部への献金に関して所得税の還付を受けていないという宣言である。では、なぜ、誤解を受ける恐れがあると考えるようになったのか。そもそも、その誤解とは何か。菊田氏は何も示していない。

国民民主党の衆院議員・浅野哲氏(茨城5区・比例復活)は秘書や事務所員ではなく、本人から電話で回答があった。浅野氏は2017年の寄付のうち、1000万円を控除のための書類に記載した。それを選管に提出し、確認をもらっている。確定申告の際、実際に控除を申請していたら約300万円が還付された計算だ。

浅野氏の説明はこうだった。

「当時は当選直後のこともあり、書類を使って控除の申請を行った。当時の認識としては、政党支部への寄付は自分のために使っているのではなく、政党のために地域で活動する人たちのためのもの、と思っていた。多くの先輩議員の方々が寄付をしても控除申請していないことを知り、今後は控えたいと思っている」

丸山穂高氏「税金アジャース」の意味

衆院議員の丸山穂高氏(大阪19区、NHK受信料を支払わない方法を教える党)は2019年にN党近畿支部へ800万円を寄付した。それについて、税額控除のための書類を選管から受け取っている。控除申請した場合は約240万円が還付された計算だ。

丸山氏からはメールで「(還付金を)受け取っている」と回答があった。その上で、受け取った理由を次のように記していた。

「現行法において合法かつ適当であり全く問題ない。本件は、これまで(租税特別措置法の)法改正について提案しても一向に改正議論が進まず、加えて大多数の与党が動かず一人の無所属議員(ママ)としては法改正手段に限界がある中で、逆に堂々と現行制度を積極的に利用し“税金アジャース”と皮肉的に宣言することで啓発することにしている。今回の件が啓発となって法改正に向かえばよいですね。“税金アジャース”」

現行制度の不備、“抜け道”を是正しようしない国会の現状を逆手に取り、還付金を受け取って“税金アジャース”と快哉を上げる。その姿勢は、丸山氏ならではのもの、とも言える。

衆院議員の黄川田仁志氏(埼玉3区、自由民主党)の場合は、税額控除の手続きを「した」と「しなかった」の回答が混在した。

黄川田氏は2015年の寄付600万円、2016年の500万円について控除のための書類を受け取っている。実際に申請していた場合、還付金の合計額は約330万円になる。黄川田氏からの回答はファクスで寄せられ、2015年分に関しては「還付金を受理しています」とする一方、2016年分については「控除証明書の発行はありましたが、還付金手続きはしていません」とあった。

なぜ、2016年は書類を受け取りながら、控除申請をしなかったのだろうか。ファクスにはその回答も示されていた。以下のような内容である。

「2015年当時は議員自らが支部長を務める政党支部への寄付に伴う控除について、違法ではないものの、その是非に議論があることを認識していなかった。その後、議論があることを認識し、16年分については還付手続きはしていません」

「16年分の寄付までは、受領した寄付については全て控除証明書を発行してもらわなければいけないと思っていましたが、17年分の政治資金収支報告書を県選管に提出した際、『議員の寄付について控除手続きをしないのなら、控除証明書を作成しないほうが良い』との指導をうけたことから、以降は議員分の控除証明書は作成していません」

回答の紹介をさらに続けよう。

立憲民主党の衆院議員・吉田統彦氏(愛知1区・比例復活)は2015〜2019年、5年連続で控除の書類を作成し、選管の確認印をもらっている。寄付の合計額は6033万9672円。資金管理団体と後援会への寄付はなかった。控除申請した際は計約1810万円が還付されたことになる。この金額は、今回調べたなかで最高額だった。

吉田統彦氏のHP。立憲民主党愛知県第1区総支部長を務める。2019年までの5年間で、吉田氏はこの政党支部に6000万円を超す寄付を行い、約1810万円の還付金を受け取った

吉田氏はファクスによる回答で、還付金を受け取ったことを認めた。その上で、理由も示している。以下のような内容だ。

「ご指摘の寄付は吉田統彦の医師としての収入など、議員としての歳費以外の金額を充てております。当該金額は全て総支部の人件費や必要経費など、事務所運営に必要不可欠な資金です。市井の方からの寄付と同様、かかる寄付がないと事務所運営が成り立ちません。そのため、当該金額については、他の一般の方と同様の寄付と考えられると判断し、制度の適用を受けております」

無回答の議員が多い中、説明責任を果たそうとする姿勢は見える。自らの政党支部に自己資金を充てないと政治活動がままならない、という台所事情も説明されてはいる。ただし、それが還付申告によって約1810万円を取り戻した正当な理由と言えるのかどうか、判断するのは有権者である。

無所属の衆院議員・吉良州司氏(大分1区・比例復活)は民進党、希望の党、国民民主党と政党を移り変わる中、それぞれの政党支部に属していた2016、17、18、19年分の寄付計1913万3131円について、税額控除の書類を受け取っていた。還付金の合計は約573万円になる。資金管理団体と後援会への寄付はなかった。吉良氏はメールによる回答で還付金を受け取ったことを認めた。その理由も示されていた。 

「違法ではないこと、また、秘書給与、事務所家賃、水道光熱費などの事務所運営固定費、および広報誌作成、郵送などの政治活動に関わる経費など、飲食を伴わない政治活動費に充当するための寄付であり、それに基づく寄付金控除であることから、問題ないと考えています。さらに17年間の政治活動の中で政治資金パーティーなどの会合を一度も開いたことはなく、政治活動資金がなくなった場合は個人から充当していることも付記しておきます」

きちんとした政治活動への寄付だから、政治家自身が税額控除を受けても問題はない、と読める内容だ。

ただし、こうした仕組みを使って約3割が還付されても、それに伴って政党支部の収入が減るわけではない。言い換えれば、政党支部は7割の寄付で10割の収入を得たことになり、その差額は国庫で負担されたとも言える。丸山氏が「税金アジャース」と言ったのも、その点を突いている。

(おわり)

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