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「無期懲役囚」たちと手紙を交わし続け、刑罰の意味を考えた稀有な報道

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無期懲役を狙って新幹線に乗り込んだ22歳の凶行、期待通りの獄中生活に「とても幸福」 死刑に次ぐ刑罰の意味とは

弁護士ドットコムの一宮俊介記者が、極めて興味深い取材に取り組んでいます。

罪が確定して服役している無期懲役囚たちに手紙を送り続け、彼らがどのように罪と向き合っているのかについて対話し、刑罰の意味を改めて考えようというものです。

このうち、2018年に走行中の新幹線の車内で乗客を死傷させた、当時22歳の小島一朗受刑者も、無期懲役刑に服している一人です。裁判でも「一生刑務所に入りたい」と語っていた彼は、服役してまだ5年にも満たないですが、たびたびトラブルを起こし、いまは「寝たきり」で介護を受けていると伝えてきたといいます。

それでも、「刑務所は衣食住があたりまえであり、友人も仕事も娯楽も全て用意してもらえる」「今は幸せ」と語り、刑責の重さに向き合わせるとした判決に対して、挑戦的な態度をとっているといいます。一宮記者はやりとりを通して、「無期懲役という刑罰の限界」を感じたとしています。

果たして幸せというのが偽らざる本心なのか。強がりではないのか。手紙だけでは分かりません。それに、人は自分の気持ちを言語化すると、「こうでありたい自分」を構築してしまうものなので、そういう影響もあるかもしれません。しかし一宮記者は相当に手紙による対話を繰り返しています。そこに何度も繰り返し出てくる「シャバに出たくない」という文言については、なにがしかの真実が含まれているように感じます。

であれば、そもそもの罪を犯す、その考えに至るまでの「出ていきたくない、生きづらい社会」をどうにかする方法はなかったのか、とも思います。

一方で、一宮記者は他の多くの無期懲役囚ともやりとりをしていて、無期懲役は「死刑よりきつい」と語る性犯罪繰り返した囚人もいたということです。

こうした多くの無期懲役囚たちとの対話の内容は、今の社会の写し鏡でもあり、刑罰の在り方はもちろん、社会や福祉など様々な事象を、無期懲役に服すほどの罪を犯した人物による平常とは全く違う立場・視点でとらえ直す試みにほかならず、有意義な取り組みではないでしょうか。

一宮記者は以前、64年の長きにわたって服役し、仮釈放した人物へのインタビューも行っています。

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