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信頼して預けた施設で子どもの行方不明が339件、死亡も3件…放課後等デイサービスで何が起きているのかを深掘りする報道

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

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※3月19日11:50に記事の一部を修正しました。2023年11月1日時点でのNHKの報道を加えています。

子どもの“行方不明” 5年間で339件 大切な居場所で何が

障害のある子どもを放課後や休日に受け入れる「放課後等デイサービス」。1か月あたりの利用者数は、今やのべ34万2753人にも上っているそうです。

しかしいま、その在り方が問題になっています。特に注目されたきっかけは、大阪府吹田市の施設「アルプスの森」に通っていた、当時中学1年生の清水悠生さんが、車で送迎の際に行方不明になり、その1週間後に近くの川で死亡しているのが見つかった事件でした。警察は安全対策を怠って死なせたとして業務上過失致死の疑いで運営会社の代表らを逮捕しています。

この事件を受けて、いち早く調査報道を展開したのが、NHK大阪放送局。大阪府内の自治体に情報公開請求を行い、同じように行方不明になったケースは5年間で71件に上っていたことを明らかにしました。

問題の背景には、施設の最大の収入源は国や自治体から受け取る報酬で、主に受け入れる子どもの人数で決まるということがありました。取材に応じた専門家は、「療育面と安全面を考慮して職員の数を増やせば運営が赤字になるという、課題が山積している制度設計だ」と指摘しています。

続いてMBSも府内の自治体に取材したところ、2022年度までの5年間で事故報告が415件、一時的に子どもが行方不明になったケースは61件にのぼったと11月29日に報じています。

制度が始まった2012年度から施設は約6倍に急増。そして国の基準では子ども10人に職員を最低2人をあてることになっていますが、リポートでインタビューに答えている施設の所長は、2人で面倒を看るのは難しく、6人は必要だとしています。

さらに関西テレビは12月12日に、この施設で働いていた人へのインタビューで、「通所者への暴力が常態化していた」証言を報じています。

個別支援計画書や職員会議の資料も入手し、亡くなった悠生さんが突発的に動くことがあるので、職員2人以上で対応することになっていたのに、1人で対応していて行方不明になった状況を明らかにしています。

そしてNHKは更に全国に取材を広げ、ことし3月1日(テレビでの初報。ネット記事は3月16日)に改めて報じました。

放課後等デイサービスの施設を管轄する自治体のうち、人口の多い10都道府県とその政令指定都市・中核市に情報公開請求を行った結果、施設で子どもが一時的に行方不明になるケースが5年間で少なくとも339件に上っていたというのです。死亡したケースは、悠生さんのケースを含め3件あったということです。

別途、施設の職員にアンケートしたところ、回答した人の9割近くが「スタッフの人員不足」を課題として挙げました。最大の収入源である国や自治体からの報酬は、主に受け入れる子どもの人数で決まるので、人手を増やして手厚くするほど運営が厳しくなるからです。

先に挙げたMBSのリポートでも、施設の所長が「事業にかかる支出のほとんどが人件費。人件費を削ればもうかる。まじめに運営している事業所が運営の危機に陥るようなことがない制度設計にしてほしい」と訴えていました。

実際、必要な人員を配置せずに事業をしているとして事業所の指定を取り消す処分を受けるケースが、全国で相次いでいます。

問題の本質を知らせるため、「横に広げる」報道は大事ですね。そして改めて制度設計を見直すタイミングに来ているのかもしれません。(熊)

(読売新聞 2023/12/12)
(MBS 2023/11/29)
(カンテレ 2023/12/12)
(NHK 2023/11/1、2024/3/16)

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