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「寄り添う」のでも「見守る」のでもなく…1年4カ月、路上に立つ女性たちと語り、「なぜ」を突き詰めたルポ

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

きょうのおすすめはこちら。

ルポ路上売春 2023年の歌舞伎町から

正直、最初にタイトルを見た時には、世にあふれた売春街ルポかと思い、読むのを躊躇していました。

しかし実際に読んでみると、なんだか他のルポとはちょっと違う気がしたんですよね。登場するユズ、モモ、レイという中心的な3人の女性を丁寧に取材し、リアルにその姿が浮かび上がってくる描写のうまさはあるのですが、そういうことではなく、何かが違うように思えたのです。

先日、著者の春増翔太さんにお会いして話を聞いたら、なんとなくその理由が分かった気がしました。

曰く、「自分には“寄り添う”という感情が欠落しているのかもしれません」というのです。

報道の世界では、よく「被災者などの取材対象には徹底して寄り添え」といわれますが、全くその逆のことしかできないと。確かに、このルポには説教臭いことはもちろん、共感や同情といった感情を乗せた部分はありませんし、角度をつけたオピニオンのようなものも全くありません。結論も、提言さえもありません。

そこが物足らないという読者もいるかもしれませんが、私はそれこそがこのルポを独特なものにし、もしかしたらそれだからこそ、女性たちからこんなにもプライベートなことまで引き出せたのかとも思いました。ただひたすらに、「なぜ」を突き詰めていった取材だったと聞きました。

実はこういう取材、難しいんですよね。特に取材対象が本当のことを言っているのかどうか見極めのが。そこも、記者ならではの「裏の取り方」のテクニックをいろいろと聞かせてもらいました。

WEB記事だけでなく、ちくま新書からも出版されています。読後感がまた違いますので、こちらもご興味があればぜひ。

出版の経緯についてもなかなか興味深いエピソードがありました。1年4カ月もの間、何を書こうかと迷い、ただ取材だけ続けていたということなのですが、いざ新聞に2本の記事を書いたところ、それを目にした筑摩書房の編集者から連絡をもらったのだとか。

そこで先に本を書き、そのうえで新聞社の方でも記事を書いていくという、通常とは逆の経過をたどっているんですよね。

読者の反響が大きく、現在も連載は続いています。次は路上売春とは違ったテーマに焦点を当てたいということでしたので、期待しています。(熊)

(毎日新聞 2023/2/19~)
(ちくま新書 2023/11/7)

みんなにも読んでほしいですか?

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