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最近、一面でもよく見る「心を動かすエモい記事」は新聞にとって必要か?

あふれるニュースや情報の中から、ゆっくりと思考を深めるヒントがほしい。そんな方のため、スローニュースの瀬尾傑と熊田安伸が、選りすぐりの調査報道や、深く取材したコンテンツをおすすめしています。

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その「エモい記事」いりますか 苦悩する新聞への苦言と変化への提言

最近、東京工業大学准教授の西田亮介さんが「新聞にエモい記事が増えているのではないか。それは新聞の期待された役割ではないのでは」という懸念を、いろいろなところで表明しています。

その論考をまとめた投稿が、朝日新聞社の『Re:Ron』で配信されました。

私自身も、一部の新聞で一面にエピソード中心のナラティブ(物語)で人の心を動かすような記事が増えていることが気になっていました。

西田さんは、こうしたデータの裏付けやエビデンスが弱く、個人の体験話に依存する「エモい記事」が増える背景について、旧知の新聞社の知人から聞いた話として、こう指摘しています。

SNS上で、つまるところデジタル版において、この手のエピソード型、ナラティブ型の記事はよく「読まれる」らしい。よくクリックされ、PVなどの「数字」が出るというのだ。

ネットの影響、平たく言えばPV稼ぎのためではないか、というわけです。

一方で、こうした取材や執筆に手間がかからない「心を動かす」コンテンツは、新聞に限らずブログやネットメディアなど無料で読めるインターネットの中にあふれています。読者も毎日、その情報を浴びせられています。

そのような状況で、新聞が同じような記事をおカネを払って読んでもらうのは難しいのではないか、と西田さんは分析します。

もっと言えば、新聞記事が、真偽不明の情報とお涙ちょうだいエピソードにあふれた通常のネットと同じであったなら、それだけのコストを払う意義を感じられるだろうか。

つけくわえるなら、西田さんは個人のエピソードを取材した記事をすべて否定をしているわけではありません。重要なのは「バランス」だと指摘しています。そこは丁寧に書かれた記事をご覧ください。

それにしても、先述したように私自身も、この問題は気になっていました。

これまである種の啓蒙性を意識した新聞の報道姿勢を、「上から目線」と疎んじる人もいました。その対策として読者の共感をえるために、身近な日常を取材したエピソード中心の「エモい」記事が増えている面もあるのではないでしょうか。

新聞だけでなく、経済メディアでも「貧困女子のインタビュー」のような、読めば同情してしまうものの、本人の言い分だけで裏取りをしていないような記事をよく見かけます。

こうした記事の特徴は、取材先が匿名が多いという点にもあります。夫との関係に悩む主婦や会社の上司に違和感を覚える部下、貧しさから風俗で働く女性などが、本名を明かさず登場する記事はあふれています。

取材先の匿名を即、否定するわけではありません。名前を出すことで立場が不利になるなど、理由がある場合もあるからです。しかし、名前をあかせないのであれば、証言の信頼性をあげるために、その言葉の裏をとる必要がより高まります。

残念ですが、そうした努力の後が見えない記事も少なくありません。

新聞をはじめとするこうした記事の制作者は、西田さんの指摘を深刻に受け止める必要があるのではないでしょうか(瀬)

朝日新聞社Re:Ron 2024/03/29


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