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【諸永裕司のPFASウオッチ】「謎の汚染」を解明するカギになるか、環境省が全国調査へ

国際機関が発がん性を指摘しているPFAS(有機フッ素化合物)。全国各地で汚染が発覚し、原因が不明とされているケースもある。

そんな中、新たにPFAS汚染の死角に光が当てられた。PFASの除去に使われる「活性炭」。その実態調査に環境省が乗り出すことになったのだ。

きっかけは、飲み水が高濃度で汚染された岡山県吉備中央町のケースだ。汚染源は山中に野積みされた使用済み活性炭と見られている。こうしたケースが他にもあるのではないか。環境省は町議会からの要請を受けて全国調査に踏み切ることにした。

野積みされていたのと同じ活性炭のフレコンパック(岡山・吉備中央町)

汚染源と見られる「野ざらしの使用済み活性炭」

吉備中央町では昨年10月、円城浄水場から最大で国の目標値の28倍の濃度のPFOS・PFOAが検出されていたことが明らかになった。水源近くの沢からも、国の目標値の1240倍にのぼる高濃度が検出された。

その後、上流にある資材置き場に、使用済み活性炭を詰めたフレコンバック約580袋が野積みにされているのが見つかった。そして、使用済み活性炭からは最大450万ナノグラムというきわめて高い濃度が検出された。

関係者によると、この資材置き場を利用している地元の会社は、使用済みの活性炭からPFASを除去して再利用できるようにする活性炭再生事業に取り組んできた。野積みにしていた活性炭について、同社は「再利用するために保管していたもので、有価物だ」と主張していたという。

一方、岡山県は「一部のフレコンバックは破れたまま野ざらしになって、活性炭がこぼれ落ちたりしており、適正に管理されていたとはいえない」として、産業廃棄物と位置づける。

使用済み活性炭が野積みされていた場所(岡山・吉備中央町)

ただ、環境省は、PFASを含む産業廃棄物について「高温で焼却処理する」とのガイドラインを設けているものの、管理・処分に関する法的規制はない。

そもそも、吉備中央町で野積みにされていた使用済み活性炭はどこで使われ、どのような経路をへて運び込まれたものなのか。同社は県や町の聞き取りに対して明らかにしておらず、不明のままだ。

問題の活性炭はどこから運ばれたのか

ただ、いくつかの情報から可能性を絞り込むことはできる。

ひとつは、汚染された水道水に含まれていたのは、数ある有機フッ化化合物(PFASは総称)のうちの一つ、PFOAが大半を占めていた、という点だ。

活性炭は全国の浄水場でPFAS除去のために使われている。浄化前の水にはさまざまな種類のPFASが含まれるため、野積みされていた活性炭が浄水場で使われたものならば、いくつもの種類のPFASが残るはずだ。

だが、検出されたのがほぼPFOAだけとなれば、製造過程でPFOAを使っていた工場で使われたものである可能性がきわめて高い。

会社の倉庫に保管されていた活性炭のフレコンパック(岡山・吉備中央町)

さらに注目するのは、同社が使用済み活性炭の野積みを始めた時期だ。

町によると、2008年とされる。当初は町内の工場の近くに置いていたが、保管場所が足りなくなるなどして山中の資材置き場に置くようになった、という。

その2年前、世界の化学メーカー8社は「2015年までにPFOAの製造・使用を廃止する」との協定を結び、排出削減に取り組むことで合意した。国内からは、ダイキン工業、三井・デュポンフロロケミカル(現三井・ケマーズフロロプロダクツ)、旭硝子(現AGC)の3社が加わっている。

つまり、大手化学メーカーがPFOAの排出削減に取り組みはじめた直後に、吉備中央町で使用済み活性炭の再生を手がける同社が地元の山中で野積みを始めたことになる。そこに何らかの関連はないのか。

町は専門家などによる原因究明委員会を設け、資材置き場などの土壌調査を予定しており、汚染源を確定し、汚染実態の解明を進めたいとしている。

全国の「汚染の謎」を解くカギになるか

町議会が環境省に提出した要請書は、こう締め括られている。

<すでに相当量のPFAS含有廃棄物が全国に拡散しているものと思われます。健康被害を未然に防ぎ、良好な環境を保全するためにもPFAS含有廃棄物の管理及び処理の厳格な規制を行っていただけるよう要請します>

吉備中央町議会から環境省への要請(5月15日 撮影:諸永裕司)

環境省は、活性炭処理の現状を把握するため全国の業者に対する実態調査にとりかかり、2024年度中に結果を公表するという。

だが、吉備中央町で野積みしていた会社のように、廃棄物管理の「川下」を調べるだけでは不十分だろう。そもそも汚染除去のために活性炭を使っていた工場・事業者や浄水場を運営する自治体など、「川上」にある排出者の責任をどこまで問うのか、環境省の姿勢もまた問われている。

※スローニュースは、岡山県吉備中央町の住民の血液検査で明らかになった衝撃の血中濃度データについて詳しく報じている。

諸永裕司(もろなが・ゆうじ)

1993年に朝日新聞社入社。 週刊朝日、AERA、社会部、特別報道部などに所属。2023年春に退社し、独立。著者に『葬られた夏 追跡・下山事件』(朝日文庫)『ふたつの嘘  沖縄密約1972-2010』(講談社)『消された水汚染』(平凡社)。共編著に『筑紫哲也』(週刊朝日MOOK)、沢木耕太郎氏が02年日韓W杯を描いた『杯〈カップ〉』(朝日新聞社)では編集を担当。アフガニスタン戦争、イラク戦争、安楽死など海外取材も。
(ご意見・情報提供はこちらまで pfas.moro2022@gmail.com

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